第九話 無用の火照り
「
「おれはまだ
先を
一刀斎はその
気が張っている。どうやらこの竹中半兵衛という男は、木下藤吉郎の部下でも重要な地位にいるらしい。
「
なにか思うところでもあるのか、半兵衛が
「――――さて、では
そんな素振りを見せたのは
どうやら
「赤組で勝ち残ったあなたは、これから
「
なにしろあれはそのための戦いだった。
お陰で、
「始めに、
半兵衛の言葉が、一刀斎の心に真っ直ぐ捧げられる。
そういえば戦いが始まる前、半兵衛も剣の心得があるといっていた。
半兵衛はそのまま、説明を続けた。
「仕合と言うとおり、先の入り乱れての戦いではなく向かい合ってのものとなります。開始の合図は、我が方の藤吉郎が直々に行います。……あの人は話し好きなので、その際に
半兵衛の言葉で、両脇の男達が小さく笑う。主をそのように扱うのはどうなのかと思ったが、半兵衛からも、笑っている兵達からも、「
「合図の先は、存分に戦ってください。その
「……言われずとも、死力を尽くす。そうでもしなければ、倒せぬ相手が待っているのだろう」
過ぎったと思った瞬間には、
だが流星が暗い
甚助が一瞬だけ漏らした気配が見せた、恐ろしく寂しい世界。あれは、一体――。
「見えましたよ」
思案していると、前方で
しかし
そしてその先は、
木下藤吉郎の臣下で、青組の目付をしていた
いや、刀を振らずに倒すなどは当然不可能。間違いなく剣閃は
するとその男を囲んでいた武芸者達は、瞬く間に打ち倒されていた。
ただの
青組の戦いは、
「無事死ななかったな、一刀斎殿」
「
藤吉郎に報告があるとその場を離れた半兵衛と入れ替わりに、
いつもの動きやすそうな麻の
それだけ重要な
「やはり、あの抜刀の男が勝ち上がったな」
「ああ、そのようだな」
春丸が振り向いた先には、浅野甚助がいた。青布を敷いた石畳の上に黙して座していて、その周囲には、まるで雪上がりのような冷たい気配が漂っていた。
「こちらへ」と春丸に促され、甚助を流し目に後を付いていく。
「さて、案内の織田方から話は聞いていると思うが、これから神事が行われる。
春丸に連れられたのは甚助の真正面、白布の左手にある赤布だ。
こちらが赤組だから赤布。あちらは青組だから青布。なんとも分かりやすい。
一刀斎は指示されたまま赤布の上に
先に辿り着いた甚助に
しかし胸の内に宿った熱が、もどかしい。
気が逸れば、力を込めすぎれば、技はぶれる。
「一刀斎さん!」
「…………む?」
振り向けば、そこにいたのは喜七郎だった。没頭していたせいか、全く気付かなかった。
喜七郎は白の
さすがに
「無事残ってくれてありがとうございます! 一刀斎さんの剣を見るのが楽しみです!」
「礼を言われても、別に喜七郎のために残ったわけではないのだが……」
溜め息交じりに答えたが、喜七郎は
しかし、今はそんなことよりもだ。
「喜七郎、お前はこの後――――」
「喜七郎様っ、駄目ですよ
訊こうとした
「ええ……でも自分は、一刀斎さんを応援しようと……」
「アナタ様はこの後お務めがあるがあるのですから、その為に控えていただきませんと……」
「そういう
「……そ、それもそうなのですが。私、
一刀斎の鋭い指摘に、
はてと一刀斎もそちらに目をやれば、喜七郎の母である
太阿は優美な
人の
……いや、そうではない。そもそも圧など放ってはいないのだ。
ただそこにいるだけでも圧倒する存在感。その強弱を
「……? どうしたんですか? 二人とも?」
感心する一刀斎と、固まってしまった鳴子。山路の圧に気付かないのは、無邪気な喜七郎ばかりである。
「さ、さてそれでは、行きましょうか喜七郎様!
「え、う、うん分かりました。頑張ってくださいね、一刀斎さん!」
ぽかんとした喜七郎は素直に鳴子に手を引かれ、拝殿の方へと向かって言った。
なんとも、風のような二人だった。
それも
「……ふむ」
気付けば腹の底に溜まった熱が、幾分か
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