第三話 流星の剣
仕掛けた男が、ぐったりとその場に沈む。今まで
ハッとして見てみれば、
(今のは、抜き放ったのか?)
だが、しかし。
「…………ふむ」
編笠の男は、その上を行っていた。
夜空を走り、切り裂く
「見事だな……あの
感嘆の声を漏らすのは、
春丸はしかと目を細め、とうに過ぎた剣の
「ほう」と一刀斎は
「お前はあれが見えたか」
「ああ、
ごくりと喉を鳴らした春丸の頬には、冷や汗が
確かにあれほどの
正直言って、
いったいどれほどの
どれほどの
「き、貴様よくも!」
胸に満ちる
だがああ
「…………このような
ぼそりと
あわや
「そんなことをしている場合か」
「…………む?」
思わず、一刀斎は口を出した。声の主を見遣る男達の目は揺れている。なんとも頼もしい男達だ。しかし。
「それが主だか兄弟子だか師匠だかは知らんが、それを放っておくのはどうなんだ。
後に続いた春丸の言葉に、男達は
「そいつ、死んでいないぞ。その編笠がしたのは、峰打ちだ」
隣の春丸が、大きく
「そうだろう、編笠」
「……………………うむ。本人は、いつの間にか気絶したとしか、感じていないだろうな」
取り巻きが倒れた男の周りでしゃがみ込み、口元に耳をやり、手や脇やらに手を当てた。そこで呼吸と脈があることにようやく気付いたのか、あからさまに安堵の表情を浮かべた。
春丸は、そこを突く。
「さて、どうする。主をさっさと連れて行くか。それとも主と同じようにその者の
あっと言う間に影が消えた。
「熱田神社」の名を聞いた瞬間に取り巻きは男を
「熱田の宮の名は出しただけで
「なにしろ熱田は
二人並び、一団を見送る。そんな一刀斎らの元に、あの編笠がゆるりと近付いてきた。
「…………助け船、感謝する。峰や腹で、
その口ぶりには、己の
だが声は小さく妙な間があり、どこか
それを気にしての堅い口調か。
声だけでは頼りなさげに思えたが、
「お前さん
「手前はそうだが、こっちは違う」
「おれはただの
「近江……」
編笠は「たしか、
「…………
「
脳裡に浮かんだのは、雷を秘めた夏の入道雲のような男、
言葉遣いは間延びしていて、態度こそゆるいものの、剣や
仕合こそしたことはないが、今まで会った
しかし記憶の限りでは、松軒は抜刀を
「…………
「そうだったか――」
ふと、肌がひりつく気配を感じた。
辺りを見てみれば、さっきまでざわついていた人々が拍子抜けしたような顔で、興味深そうにこちらを見ていた。
技競べがあるからか、どうしても武芸者は目を引くらしかった。
「…………人目は、あまり好かない。
「浅野甚助、お前も技競べがあるから、ここに来たのか?」
甚助が立ち去ろうとしたその
笠をわずかに上げ、こちらに振り向いた甚助は、その長い柄を握って軽く掲げる。その
「然り」と、言葉よりも
春丸と肩を並べ、その背中を見送った。
「これは、相当な手練が参加するようだな。一刀斎殿は、どう思う? 攻略出来るか、あの抜刀を」
「……ふむ」
珍しく、即答しなかった。
更に鹿島香取の技を得ているのならば、松軒のように近間であっても
己の腕に自信がないわけではない。だがあの技を捌けるかと聞かれれば。
「分からん……というのが正直なところだが」
だが、しかし。
相変わらずの
今まで見たことのない
「――――浅野甚助。その抜刀術。ぜひとも相対したいものだ。春丸殿、技競べの参加は自由か?」
「無論だ。腕に覚えがあるなら、誰だろうと参加は許されている」
「そうか」
それは
しかもその相手の中には、未だ見ぬ
例え少なかろうと、あの浅野甚助さえいるならば問題ない。
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