煉武編
第一話 剣の宮
門前町を抜けた
「これが
名は
厚みのある塀はしっかりとしており、文字通り内を守るためのものに見えた。
「どうです? 立派でしょう!」
「む?」
可愛らしい声が、
神社の
「ああ、大したものだ」
「そうでしょう? 出来たのは八年ほど前。
聞き馴染みのある名前が出て来た。
織田尾張守。この尾張より出た大名であり、
一刀斎にとっては
「そうか……織田尾張守がか……」
一刀斎は改めて塀を見て、沿いながら歩き始める。先を見れば
ふと、なにか気配を感じて後ろを見てみれば、少年が付いてきていた。
やたらと目を輝かせ、己の背の倍近い一刀斎を見上げている。
「おにいさんは、
「いや、
それにしても、ハキハキと喋る子どもだった。少し舌足らずなところはあるが、口から出る丁寧でなめらか。聞き心地が良い。
武芸者、と聞いた少年は、小首を傾げる。
「それは武士とどう違うんですか?」
「武士は
「へえ……?」
どうやら見当が付かないらしい。一応の
「
「あ、申し遅れました、自分は……」
「見つけましたよ、
少年が名乗り掛けたちょうどその時、門の方から
「うわ、
「うわ、ではありませんよ! 勝手にいなくなったりして、
膝をかがめて少年――喜七郎に目線を合わせた鳴子と呼ばれた少女は、少し遅れて一刀斎の姿に気付いたらしい。
鎮守の森の手前にいる
「ま、まさか
「違うぞ。その小僧が付いてきただけ――」
「何事ですか、鳴子!」
何事だとはおれが聞きたい。と、溜め息を吐きたくなるのも
二人と違い
鳴子の悲鳴を聞いて飛んできたのだとしたらよほどの地獄耳。その
「こ、この人が喜七郎様を後に連れていて……」
「なに……! まさか拐か」
「おれはただの旅の武芸者だ」
そのやりとりはは今さっきその女とやったと、番兵の言葉を
「旅の途中、尾張にある
「ならなぜ喜七郎様を連れて森に入ろうとした!」
「おれは塀を見るために沿って歩いていただけで、その小僧が勝手に」
「問答無用なり!」
一刀斎の言い訳を最後まで聞くこともなく、番兵は一直線にこちらに身を弾き出す。
喜七郎と鳴子を挟む二人の距離は六間はあった。だが番兵は瞬く間に眼前に迫っており、一歩の速さと長さは並の武芸者を越えている。背負う
しかし――。
キィィィン!
「なにっ」
「わぁ!!」
潮騒、海風、
槍を突き出した番兵は目を見開いて、喜七郎は無邪気に声を上げた。鳴子の方は、いまいち状況を飲み込めていないようだ。
「問答無用ならば、なぜ
呆れ混じりに、一刀斎は己が止めた番兵に
鞘から
「まことに失礼いたした! まさか喜七郎様が勝手に付いていっただけだとは……!」
「申し訳御座いません! 申し訳御座いません!」
「誤解が解けたようで何よりだ」
平謝りする巫女と番兵、そして喜七郎らと一刀斎がいたのは、熱田神社の
あの一合いで衝撃を受けた番兵は、一刀斎の話を落ち着いて聞くことができ、なんとかことの
「ごめんなさい、おにいさん。鳴子さんと
「お前もお前で、誰にも言わず姿を
「それは……はい、僕も反省します」
しょんぼりと肩を落とす姿は、なんとも素直だ。きっと良き育て役がいるのだろう。子どもらしい純真さはあるものの、礼節を
ただ。
「い、いえ! 喜七郎様は悪くはないんです! 私がちょっと目を離してしまったのがそもそもの原因で……」
「手前も番をしていながら出たのを見逃してしまうとは……! 手前がしっかりと止めていれば…………!!」
なぜか分からないが、鳴子と春丸はやたらと
子ども一人にこの
「――入りますよ」
「そ、その声は……!」
その数呼吸後に
襖を開けたのは、巫女上がりだろう
彼女が座り頭を下げ、それに多少遅れて部屋に入ってきたのは、凝った
まだ二十半ばだろうが、
そしてどうやら、その勘は当たったらしい。
「
「喜七郎、また抜け出しましたね? いけませんよ、
女を「母」と呼んだ喜七郎が顔をパッと明るくして、しかし
……同じ母でもこう違うかと
すると喜七郎の母が、一刀斎を見遣った。
「この度は私の子と、宮の者がご迷惑を。申し訳ございません」
「構わない、当人達の
「ええ、私は……この熱田神社の
「ふむ、そう…………か?」
はて、今この女、さらりとえらいことを口にしたような。
「大宮司、とはつまり……」
「ええ、この方は、熱田神社の
「そしてこの喜七郎様は次期の熱田神社大宮司となられる方なのです」
鳴子と春丸が、二人それぞれ、やたら
しかし当の
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