第二十四話 羊目
「ヤン、エン……?」
「
「…………
「ああ、
フッと頭から手を離した博士――
なんとも
あるということは分かるが、分かるのは、ただそれだけ。それがどういう意味を持っているのかが判断出来ない。
「――まあ、
「ああ、とっとと
一刀斎が
対する
見たことがない
奴は本気を出した。ならばあの
ならば、することは。
「
羊目の武器は
あの速度で死角に入り込まれ、あの一撃を繰り出されるのはなんとしても避けたい。
それ故の先手打ち。自由に動かすのは、危険!
「
前に出された拳の手首を
「ほう、そちらから来るか! ならば!」
羊目は脚の前後を入れ替え
一刀斎の牽制を繰り出した腕めがけ刀を返し、身を滑らせながら薙いだ。
しかし。
「スッッッ!」
鋭い
そして霧は、気付かぬ内に一刀斎を取り込む――!
「
「ッ!」
横に抜けていた羊目が、引き絞った拳を一刀斎の脇腹に付けている。
一刀斎にも見えた。拳と己を
「フンッッッ!!」
「ちぃ……っ!」
羊目の
取った――!
「フッ!!」
「なにッ……!?」
跳ね上げられた
これも勁の応用かと思いつつ。
完全に視界の外に回ったはず。なぜ――。
「僕のこの目はね、見た目通りなんだよ」
振り向き様に飛んでくる拳を飛び退いて
両者の距離は
左右共に、二つの瞳が並んいる。黄色く濁った
「この目のお陰で苦労した。人に疎まれたというのはさておいて、なにしろものが
羊目の言葉に、思わず口の端が吊り上がる。ああなるほど、伊達に眼球に瞳が二つあるわけではないらしい。耳の後ろまで回ったはずだが、そこすら視界の内だとは。
「それは、大したものだな……!」
「ッ!?」
足元に落ちていた竹をサッと拾い、羊目の顔面目掛け
自ら
「
しかし羊目も
「
「シュッ……!」
据えられた拳が飛ばされる前に刀を袈裟に振るい牽制するが、羊目は
出し切られる前に柄打ちでもって拳を払いつつ、打撃面を
「
だが羊目は、大きく後ろに下がる。
だがそれは魔法でもなければ奇術でもない。
間違いなく、練り上げられた
「
離れた羊目を追ったものの、近付く刹那に羊目は身を
目で追えばもはやそこには居らず――一刀斎は、羊目と逆回転に身を返し、振り向き様、背負った
背後に回っていた羊目はその眼を見開いて繰り出しかけの拳を引いて、
鼻の頭に熱を帯びた
やはり
「
三尺以内での振る舞いを、一刀斎は今朝方この場で
ぶっつけ本番でこそあったが、あの感覚が鈍らぬうちに試す
そして試す相手がここまで武を練り上げた相手というのも
だが、しかし。
「
「くっ……!」
霧もそう簡単には燃やされない。勁の一撃は、
一刀斎は
力を直に流し打ち込む勁の技はただ
正直言って、お互い決め手に欠けている。
だがそれも一瞬で、諦めたように嘆息を吐く。「やれやれ仕方ない」とでも言いたげに、肩をすくめて見せて。
「やはりと思っていたけれども、ひとつでは足りないか。――正直、気は進まないが」
拳を前に出した羊目は、
静かな呼吸を繰り返す様は、まるで
「
なにかを呟いた。その瞬間、羊目が吐き出した呼気が
押し固められた空気が一刀斎の体を縛り上げ、意に反して体を動かすことが出来ない。
――羊目の持つ気配が、変わった。
霧のような気配は黒く凝り固まり、二本の腕は純然たる殺意が宿り、鋭い
(――――前だ!!)
いつの間にか羊目が、眼前へと迫り手刀を振り下ろしかけていた。落とされた
いま羊目から発された力は先の比にならない。纏う気配は尋常ならざるものであり、もはや一体の鬼神と言って良いほど不穏。
そして一刀斎は、この力と気配を知っている。
己の力に酔いしれた武芸者崩れの無頼共や、人知を越えた怪力を持っていた牛童子。そして己の肉体に反した実力を発揮して見せた千治。
羊目が放っている気配は、彼らのものと同じく。正気を逸脱した常識外れのものである。
「貴様、いったい……」
「なに、
「ツッ!」
もはや分身と言っても良いほどの速度で足を
幸い強力な意を乗せられた拳は読み易かったが、ただそれでも、回避することだけに
「
止まらない。触れることが叶わなかった狭霧は確かな
そしてそれらの拳は、数多ある急所をしかと狙い据えていた。
目にも止まらぬ高速連撃は、呼吸などする暇など見つからない。だがしかし、目端にわずかに映る羊目の顔に
呼吸、息とは体を動かすために必須である。だというのにこの男は、息を止めてなおその
「
「ッ……!」
もはやそれは、ほぼ同時。
その拳は無慈悲にも、一刀斎の肉体を強かに打ち付ける――!!
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