第十三話 撒いた種が実る前に
宿を出て街に出てみれば、人々は数人かに
だがしかし、右の町人に耳を
「やられたのは
「ああ、あの
「せこい
左の
「職人にも逃げられたところにこれじゃあ泣きっ面に
「その職人にもろくな
「自分らはしっかり真面目に商売するかね。そうすりゃ影縫も来ないだろうし」
みな影縫の肩を持つか、
盗みに入られたという
そういえば──。
「おや、
頭の中を
昨日とはまた違う、派手な
その顔で、思い出した。
「昨日おれが
「なんだよ藪から棒に。……ああ、影縫の話か。どこもかしこもその話で持ちきりだねえ」
肩を
しかし、妙である。
「昨日の様子を見るに、お前も影縫のことを認めていたと思ったが」
なにしろ、あの
それに、よく人と
「うん? 認めてる、ってのはちょっと
まあ、と千治は一度言葉を
「
「お前が言うと
「おやなんだ。あんたの口、そんなつまんなそうにしてんのに
「剣を振りに街の外れに出る。昨日村へ向かう途中、良い
「俺はこのあと
邪魔で仕方ないと言いながら、千治が羽織をわずかに開けば、袴の帯に
はて、と目を細めながら。
「持っていたとしても、使えるのか?」
「さてねえ、村で
「それがわかっているだけ
力がある。
使えるかどうかは、
「教えてやろうか」、とは言えない。
「では、おれは行くかな」
「じゃあ、俺は
「おやこれは、
一刀斎の背中越しに、千治を呼び掛ける声がした。
はて
今の
それだけではない。──一切の気配が、読めなかった。
とかく
思わず、身構えかけた。だがしかし。
「なんだ、あんたかよ……」
千治が、男に向けた気配。それは今まで彼が
退けるような「拒絶」の風、探りつつも踏み込ませんとする「警戒」の霧。
そしてその気配の質は、やたらと
「おや、ご友人との会話を
「聞くこたねえよ、ほら、行きな」
狩衣の男の言葉を
千治の面立ちはなにやら不穏である。だがしかし男は、そんな千治の思いを知ってか知らずか、露にされた顔の下半分は、逆の弓月が張り付いていた。──顔の下まで、笑いを象った面でもつけているかのように。
「……ああ、ではな千治」
なにやら
ならば千治の顔を立てるかと引くことにした。
すれ違い様、狩衣の男の目がこちらを見たような気がしたが、一刀斎は
「見たところ
「この俺になんの用だよ」
「いえ? 用はありませんよ。ただお見かけしたので声を掛けた次第でして。
「なんで
千治の
拒絶の風も受け流し、警戒の霧にも
「ああ、そういえば
またその話かと、うんざりした千治は答えもせずに
一刀斎の相手ならまだしも、この男と
「──お
「なに?」
お父様方。それは言葉通り、父親たち
だがしかし、その言葉に付いた返しが脳みそに引っ掛かる。妙な
しかし当の本人は、その視線を全く気にすることはなく。全く別の話さえ始める。
「そういえばさっきのあのご友人、お名前はなんというんでしょうかね?」
「は? 一刀斎のことか? ……っ」
言った後で、しまったと
一刀斎。その名を聞いた博士は
こうしてみると、もはや
「──なるほど、一刀斎殿ですか。それは
しかし人形に見えたのはわずかばかりで、
気づけば千治が去る前に、博士の方が立ち去っていた。
その事実に気づいた千治は、思わずじりと地面を踏む足に力を込めた。
自分がやけに、弱く思えた。まさにあの、響きの良くないあだ名のように。
「俺は
思ったよりも、早く追い付いた。
自分が
あちらがこちらを知っている素振りはなかったが、しかし厄介であるのは間違いなかった。
「あれは、心が見えてるなあ……」
まれにいるのだ、人の心が見える者や、気配を匂いとして
牛童子が負けるのも
「……だからって、引くのも
少し、仕込みをしてみるか。種は既に芽吹き始めた。だがもう少し、手を加えてもよいだろう。
仮面の奥の
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