第七話 元服
それにつられるようにして、
冬の朝はなぜこんなにも
弥五郎が
「
「
弥五郎はというと、
自斎から剣を
「では」
小次郎が、木刀を構える。相変わらず、
まるで子どもが
「
しかし弥五郎はその太刀に、中段の打ちでもって相対した。
風さえ呑み込む
「完全に形になりましたね、「
「そうだな」
切落。かつて師に
冬に入る頃に、「これ
弥五郎の太刀は、とかくぶれない。
ことを行う時には深く考えない
それからしばし、技の
「しかし、
「もう二ヶ月ぐらいですね。ふらっとどこかに行くことはありましたが、ここまで長いのは初めてです」
「まあ、
「さてな、どこかで
あの師はどこかで
ああだこうだ話していると、あっという間に堅田に着く。
堅田は朝から相変わらず
「……いや、賑わってるんですかね、これ」
「……はて」
ざわめきたってるのは一ヶ所だ。賑やかというより
なぜか、やたらぶ
男が「おお」と声を上げれば、何が
「まさか……」と二人は
「あちらこちら
「なにしてるんだ、師匠」
「こんな朝っぱらから往来で、
別れた時と全く変わらぬ、自斎がいた。
飯ではなく
なんでも「さる
さる御人とやらはずいぶんの
「で、なんでそのさる御人はお師様なんかに?」
「おい小次郎、師匠に向かってなんかってなんだなんかって。そりゃあお前ぇ、もちろん近江堅田の金剛刀、一刀自斎の腕を見込んで
「で、本当のところはどうなんだ」
「お前らな、
「朝倉?」
「
そういえば、自斎はかつて越前にいたが近江へとやってきたのだという。そして酒を飲んで酔っぱらえば、時おりかつての頃の
「だけど俺は朝倉の連中が大っ嫌いだし、あちらさんも俺のこたあ
小魚の佃煮を箸いっぱいに
どうやら自斎は、本当に越前を
むしろ昔と比べて「今はもう自由だ」という喜びが先に来ているのかもしれない。
「で、そのさる御人とやらが越前へ行くから、師匠は戻ってきたと」
「そういうこったな。他にも腕の立つ連中も居たようだから問題ねえだろうよ。まあ俺ほどの腕の持ち主はそうねえがな!」
「さて、と、酒も終わりだしそろそろ見せてもらうかねえ」
「見せるって、何をです?」
小次郎の
「弥五郎、お前の腕がどこまで上がったか、
梅の香りを乗せた山風が吹き、稽古場の白砂を
弥五郎は
「
弥五郎が
両者は一度離れ、今度は自斎から打ち
真っ直ぐ下ろされた剣に合わせ、弥五郎は木刀を振り下ろし、自斎の剣を
前回撃剣を行った時は弥五郎が
最終的に、弥五郎の渾身の振り下ろしで自斎の剣を弾いたところで、仕合は終わった。
「腕を上げたじゃねえか。これならもういいだろう」
「もういい?」
縁側に上がり、
「弥五郎、お前、十六になったな」
「ああ、年が明けて十六になったぞ」
自斎が、ニタリと笑う。なにやら不気味で、背筋から稽古とは関係ない汗が吹き出た。
弥五郎はさっと、背中も
「喜べ弥五郎、
「元服?
「なに、ただの言い回しよ。いつまでも、「弥五郎」と言うわけにはいけねえ。なんせお前は、半人前を抜けたからな。一人前にはまだまだ遠いが」
その言葉に、弥五郎は目を見開いた。
「だが師匠、おれはまだ、「斬る」がなにか分からないぞ」
自斎はあの夏、弥五郎に「斬るとはなにか」を教えると言っていた。だがここで教わったのは刀の振り方と
しかし自斎は「いいや」と首をふる。
「お前はもう、何を
「なに……?」
師匠の言葉に、首をかしげる。
弥五郎は今一度、かつての修行を思い出す。
そして
「──剣とは心、か」
剣で以て斬ろうとするのではない。それは
剣とは心で振るうもの。心を
「気付いたか」と
「さて」と自斎が今に入る。
「元服には、それなりの
「…………儀式?」
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