第三話 三者奮戦
つい昨日、堅田衆下の
「
「問題ねえよ。野伏ごときに遅れを取る
だが
「
「
「
しかしそれとこれとは話が別だ。おかげだなんていいたくもない。可能なら、船にはあまり乗りたくない。
「ああ、
「どこだ」
食いぎみに
「あそこは少し
「なるほどな。で、その
「あそこから南に行った、ボロい
船が蒲の
どうやら浅い場所に入ったらしく、船はすぐに停止した。
「さて、こっからは歩きだ。お前ら、木刀は
自斎が水の中に入り、続いて小次郎が、長木刀を頭上に上げながら水に入る。
水位は小次郎の腰の高さ。弥五郎は安堵して、腰から木刀を抜いて、
夏だというのに淡海の水は、少し冷たい。
風が吹けば
どうやら本当に
「やれやれ、
自斎が試しに、手頃な石をポイと投げてみる。
見事に船屋に当たったが、一人も顔を出すこともない。
「どうやら相手は調子のった
「おう」
草から出ぬよう
水辺だが足場はしっかりとしている。これなら、木刀を振るのに問題はないだろう。
忍び足することもなく
残り
自斎が大きく息を吸い込み、そして。
「やあやあ淡海を荒らす
相手は素人だろうと
「──その弟子、
「は?」
おいこのオヤジ、今なんと言った。
「じゃ、あとは任せたぞ弥五郎」
「いや待て」
なにが「じゃ、後は任せた」だ。
その速さはいつの日か、相対したあの
そして、去っていった師匠の代わりに、その場にドンと現れたのは。
「テメエか────」
どす
弥五郎はスゥと鼻から息を吸い、腹の底、ヘソの下に送り込む。
「──おれだ」
腰に帯びた
肩の間から力を抜き、肘を張らず、手は握りきらず。
「前原弥五郎、相手してもらおうか!」
最初に思いがけず相手したのは、船上で三人、いや足を
正当に仕合をした一放を除いて、次に相手したのは七人の
そして今度は、十四人の水賊達。面白いように増えている。いつだか五十人相手する日も来るかもしれないと、弥五郎は
「チァアアアイ!」
この状況を切り抜けられるかで決まってくる。
「
叩き落とされる槍の一撃を受け流し、一歩踏み込んで左手を
この槍の男で、三人目。
「
「チッ……」
男を三人相手している内に、水賊達が
と、思ったが、男達は固まったまま、殺気を飛ばすが攻めては来ない。はてと思った弥五郎は、一拍おいてはと気付く。
残る連中の
不用意に挑みかかって
となればこの場を
それに気付いた弥五郎は、この殺気の嵐の
「な、こいつ──」
真正面。その笑顔に気付いた野太刀の男が、ほんのわずかに後ろに下がる。
嵐の
「
「ぐぉえっ!」
木刀を握る拳でそのまま男を殴り付け、吹き飛ぶ体をそのまま追いかけ脳天を叩き割る。
嵐を割った。このままもう一度囲まれるのは具合が悪い。さてどうするかと思ったのは
「ぐう……ごぶっ!?」
弥五郎は
「やろう、待ちやがれ!」
「おいこら弥五郎、こっち来んな巻き込む気か!」
茂みの中からこの
巻き込んだのはそっちだろうと言いたくなるが、
「一刀自斎はそこにあり!」
と、どこかの誰かの真似をして、茂みの中に突入する。
腰を落とし、息を潜めて。
──行き場のない殺気の風が、あちらこちらに吹いている。
息巻いて、やってくる男が一人。
「
「ぐぉがあ!」
無防備な喉元目掛け木刀を刺し立てる。飛び出さんほどに見開いた両目の間を、右の拳で殴り付けた。
誰も彼もがこの茂みの中、視界が
だがしかし弥五郎は、
気配がだだ
「
「がふっ!!」
いかに装備が強力だろうと森の中に入ってしまえば、
それに、この茂みの中には自斎もいる。運が悪い奴は、自斎に行き当たってしまうだろう。自斎が逃げてなければの話だが──。
「おい! あそこで長木刀が動いたぞ!」
「あれの仲間か!?」
「あ」
そういえば、小次郎がいた。こいつはまずいと声をあげた男の方に
「せいやー」
「ずぉっ!?」
──長木刀を器用に引き抜いて、男の股間を打ち上げる小次郎の姿。
その振りは
「あ、弥五郎さん、ひどいですよ。僕のことを忘れてましたね?」
「……無事そうで何よりだ」
「でぇええええあああああ!」
「うるさい」
そのまま落下してきた男は、自らその切っ先に身を沈め、泡を吹いて気絶した。
「お前もなかなか達者だな」
「まあ、あなたが来るまであの人の相手をしていたんで。あなたも
「おいこら弥五郎!」
すると二人の脇を、でかい男がすっ飛んでいった。
蒲の叢から出て来たのは、小脇で男を絞めている自斎。
「ったく、お前に任せるつもりだったんだぞ俺ぁ」
「ぐ、ぇ、たす、け」
「うるせえ!」
男の首を絞める腕に、ぐいとより力を込める。すると男は白目を向いて、「かひゅう」と情けなく息を吐いてそのまま意識を失った。
「弥五郎、何人やった」
「六人。小次郎が今二人やった」
「あれで三人目ですけどね」
「俺は俺は四人だ」
つまり合わせて十三人。つまり、あと一人────
「ッッ!!」
三人が、全くの同時にその場に伏せる。合わせたように一瞬遅れ、三人の頭上を
周囲の蒲が
自斎が「チッ」と舌打ちをする。
「一人、本物が混ざってやがった。どうりで、あの程度で調子に乗るわけだ」
むくり、と弥五郎達が体を起こし、
刀身は
それを構えるは、
「ナムアミナムアミナムミダブツ」
「ずいぶん適当な
「そういう
「いや、ねえだろ」
男が、その大長巻を脇に構える。
背負う気配も
「弥五郎」
「なんだ」
「あれはお前がやれ」
「無茶を言う……」
無茶を言うといいながら、弥五郎はもう一本、大小の小、一尺五寸の木刀を抜く。右手に中太刀、左手に小太刀。二刀を
「今度からはいきなりではなく、今のようにやれといってくれ」
「あいあい、
肩から力を抜き、肘を緩めて手は握りきらず。
足の親指に力を込め────
「
先の突風の
同時に、相手の長巻が振り下ろされる!
「
大小二つを十字に重ね、地面から返ってくる力を借りて、長巻のハバキ元で斬撃を受ける。
ドオォッッッッ!
頭上をみれば
だがしかし、
どうする、どうすれば切り抜けられる。
弥五郎は己の中に意識を向ける。この場を切り抜けるには、いったいどうすればいい!
────ふと、胸の真ん中に、ゆらりと揺れるなにかが見えた。
その炎の中に浮かんだのは、
「ああそうか」
はたと気付く。
「振り下ろさせればいい」
弥五郎はふっと力を抜いた。同時に落ちる、大長巻。
しかし大長巻は弥五郎の頭をかち割ることなく、
「なッ!?」
「
大刀で反らし、小刀で押し込み左に転じた弥五郎は、そのまま薙刀を擦り上げて、男の眉間を
衝撃と痛みに怯み、視界を奪われる大男。弥五郎は小刀を放り投げ、大刀を両手に持ち、そのまま
「
真っ向から、振り下ろす。
大刀による
戦いの場から、
小波が三度引いたその時、男は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます