出会い:皐月レオン
「やっべ、バイトに遅刻する!」
大学での講義を終えて友人らと話してたらバイトの時間ギリギリになっていたことに気づいた。
俺はその場にいた奴らに軽く別れの挨拶をして急いで駅に向かう。
いつもは使用していない裏道を通っていくか少し悩んだが、やっぱり急がなければならないと考え細い路地へと入っていく。
ちょっと臭いし汚いからあんまり使いたくはないが、人通りが少ないから時間短縮のために時々使っている。
そんな人気のない路地を走り抜けて大通りに出ようとしたときだった。
「うわっ」
「きゃっ」
物陰に隠れるように立っていた誰かに気づかずにぶつかってしまった。
突然のことで踏ん張りが利かず、尻もちをついてしまう。
「いててっ」
「いっつぅー」
ぶつかった相手を確認すると、金髪の女の子が俺と同じように尻もちをついていた。制服の上にやたらポケットの多いオレンジ色のジャケットを羽織っていて、ちょっと格好いいな、などと思ってしまう。
「わりいわりい、ちょっと急いでて」
「ボクの方こそごめんよ。よそ見をしていたよ」
……ボク? でも格好は女の子だよな。ボクっ娘というやつだろうか。
などと考えながら立ち上がると、彼女のすぐ近くに置いてある刀が目に入った。もちろん、それは鞘には収められているし本物ではないと思うが、それでも非日常的なそれに自然と目が引かれてしまう。
「あれ、その刀……」
そしてその刀の
さっきまで話していた友人が画像で見せてくれたやつに似てるな。そう、あれは確か……。
「少し前にアニメをやってたやつに出てくる……」
「え? キミ、この刀を知っているのかい!?」
少女が食い気味に勢いよく立ち上がり、逆に俺はまたしても尻もちをついてしまう。
「いやー、あのアニメを見ているというのはなかなかお目が高いね。ネットの評判ではやれクソアニメだのやれ黒歴史だの言われているけど、ボクはそうは思わないんだ。確かにバトルものだと武器をどれだけ
なんだなんだ、なんなんだこいつ。
妙なスイッチが入ってしまったのか知らないが、目をキラキラさせながらマシンガントークを繰り広げる少女に圧倒されてしまう。
「……それでね、この刀こそが主人公たちが持つ一番の武器でね。つい先日、模造刀が販売されたんだ。ちょっとお高かったけど、彼らの魂とも呼べるこの武器を腰から下げられるかと考えていたら居ても立っても居られなくて、ようやく購入する決心がついたんだよ。で、この刀なんだけど……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! ストップ! ごめん! 俺、それわからない!」
「ここの部分が……え、わからないって、どういうこと? キミも見てたんじゃないの? ひょっとして刀じゃなくて銃派?」
「いや、俺はアニメを見てたわけじゃなくて、友達が語ってたからたまたま刀の見た目だけ知ってたっていうか」
何か誤解をされているみたいだったので、とりあえずそれを解くことにした。
「あ、ああ、そうだったのか。いや、すまない。同志を見つけたのかと思って興奮して取り乱してしまった」
とりあえずマシンガントークが収まったことに一安心して、俺は再び立ち上がった。
「ボクは
俺の知っている女子高生は、模造刀を腰から下げて裏路地を
「ん、俺は
「ユウタか。よろしく頼む。ところでユウタは何をあんなに急いでいたんだい? ひょっとして君もエー……」
「あっ! やべえ、バイトに遅刻しそうだったんだ! 次の電車逃したらマジで間に合わねえ。わりい、俺もう行くわ」
言われて思い出した。俺は急いでいるんだった。こんなところで見た目と中身がヤバそうな自称ただの女子高生を相手にしている場合じゃない。
「あ、待ってくれ。これはお詫びだ」
レオンはそう言って、ジャケットにたくさんついているポケットの一つから何かを取り出した。見るとそれは、コンビニやドラッグストアなどでよく見るブロック型の完全栄養食だった。
いきなりこんなものを渡してくる女子高生。ますますただ者の気配がしない。
「サンキュ。そんじゃな」
「ああ、また」
また、ってなんだよって突っ込みたくなったが、急いで電車に乗らないといけなかったので、片手を上げるだけの返事をした。
まあ実際のところ。
俺とレオンはまた会うことになったのだが……。
キミとつながるライトノベル キム @kimutime
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