第12話明日葉と家出少女(3)

「いや~、それにしてもこんな時間に優に会うとは思わなかったよ」

「俺もお前に会うとは思ってなかったよ」

(何で今日に限ってバイト変わってるんだよ)

明日葉は普段からよく誰かの代わりにバイトに入っていることも多いのだが、今日も変わってるとは思わなかった。

「お前、一体一週間でどれだけ働く気だよ」

「今日で確か四日だから明日を入れて五日しか出ないよ」

「それでどうやって、成績維持してるんだよ」

「そんなの授業を聞いてれば出来るじゃん」

「お前は授業受けてるふりして寝てるだろ」

明日葉は学校では寝ていることが多く、授業中でも関係なく寝ていることも多々ある。そのうえバイトもしているから勉強する時間も少ないはずなのに学年では上位の成績をキープしているので、真剣に勉強してるやつらがかわいそうになってくる。

「そうなんですか?」

「そうだぞ、基本的にこいつは寝てる」

「いつもって言われるほど寝てないよ、起きてる時もちゃんとあるよ」

「でもそういわれると、小鳥遊さんが起きてるところをあまり見たことがない気がします」

周囲の目を気にしないで生きてる明日葉が羨ましいことこの上ない。

「椎葉ちゃんまでひどいよ~、睡眠学習みたいな感じだよ」

「うるせえよ、努力してるやつらに謝れ」

「柊君は少し言いすぎですけど、授業中はちゃんと起きてないと内申が悪くなっちゃいますよ」

「ん~あんまり気にしてないかな」

「ちゃんとしておいたほうがいいですよ」

「明日葉は前にぐうたらできるなら何でもいいとか言ってたしな」

「優、それちょっと違うよ。」

「あぁ、そんなにひどくなかったか」

俺の言葉に対して明日葉も反論があるようで謝ることを考えたがすぐに間違いだと思い知らされる。

「僕はね、優みたいに家事全般、何でもできる人に養われたいって言ったんだよ」

「もっとひどいじゃねぇかよ。謝ろうとか一瞬でも考えた俺が馬鹿だったよ」

「一緒にいて楽できるほうがいいに決まってるじゃん」

「お前と一緒にいる奴はお前の世話で大変だろうよ」

「僕みたいな美少女の世話ができるんだよ役得でしょ」

確かに明日葉の顔は整っていて綺麗で美少女というのは納得できるのだがそれを自分で言ってしまうのはどうかと思う。

「確かに明日葉さんはかわいいですよね。なんていうのか容姿だけじゃなくて仕草も女の子らしくて」

「ふぇっ、そんなことなぃょ」

椎葉からかわいいと言われ不意打ちのようになったのか驚いて変な声を出して否定している。

「何で自分で言ったこと他人ひとに言われて照れてんだよ」

「だって普段だったら優たちには軽く流されてるからこんな風に言われるなんて思ってないもん、それに自分で言うのと他人ひとから言われるのはちがうでしょ」

そう言いながら照れて熱くなったのか手で顔をパタパタと扇いでいる。

「私、変なこと言いましたか?」

「いやいやそんなことないよ!僕が勝手に照れてるだけだから気にしないで」

「私、明日葉さんが照れるようなこと言いましたか?」

「えっ、もしかして自覚ないの?」

「明日葉さんにかわいいとは言いましたけどそれ以外に何かありましたか?」

「やっぱり無自覚だった!!」

「椎葉ちゃんあんまり急に人にかわいいとかかっこいいとか言っちゃ駄目だよ!女子はともかく男子にはぜっ~~~たい言っちゃだめだからね!!!」

「はい?わかりました?」

明日葉の忠告の意味が分からず言葉と表情に疑問符が浮かんでいる。

「優も黙ってないで椎葉ちゃんに危ないってことちゃんと教えてあげてよ」

「確かに勘違いするやつはいそうだけど、そんな奴気にするほうが大変じゃないか?」

「むぅ、確かに」

「そんなわけで椎葉。さっきの明日葉の話は気にするなよ」

「いいんですか?真剣な感じがしましたけど?」

「あんまり気にすんな、気にしすぎても疲れるだけだろ」

「真剣は真剣だったけどやっぱり気にしなくていいよ」

椎葉は思った通り疑問符を浮かべていたが気にしない。

「じゃあ柊君に対してかっこいいとか優しいとか言ってもいいんですね」

椎葉の言葉に思わず足を止める。

「なっ……んでそうなるんだよ!!!」

そして思っているより大きい声が出た。明日葉も驚いていたがクスクス笑っている。

「俺がかっこいいとかないだろ!椎葉お前の目は節穴か!?」

「えっ?僕も前から言ってるのに信じてないの?」

「笑いながら言われてるのを信じろっていうほうが無理あるだろ!!馬鹿にされてるって思わないほうがおかしい」

「僕のはともかく椎葉ちゃんのは本当だと思うけど?」

確かに椎葉がこんな冗談を言うような性格じゃないことはわかっているが、それでも余りにも突然すぎて理解が追い付かない。

「柊君顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だけど、やっぱり素直にああゆうことを相手に伝えるのはやめてくれ」

明日葉や詩織から言われるのは冗談だとわかっているから軽く流せるが、椎葉はその手の冗談をあまり言わないタイプだと知っているのでどう受け取ればいいのかの判断がしづらい。

「椎葉ちゃん、これはね突然かっこいいって言われて動揺してるだけだからあんまり気にしなくていいからね」

「そうなんですか?柊君でも動揺したりするんですね。普段からはあんまり想像つかないです」

「椎葉、お前は俺を何だと思ってるんだ?そりゃ俺も人間なんだから動揺ぐらいするからな」

「いえ、あのそうゆう意味で言ったんじゃないんです。学校では落ち着いた所しか見たことがなかったのでこうゆう事じゃ驚かないんじゃないかって思ってたんです」

「優はクールぶってるだけで人付き合いが苦手なだけだよ」

「おい明日葉、俺は人付き合いが苦手なんじゃなくてうるさいのが嫌なんだよ。そこ間違えんな」

「まあまあそうゆうことにしておいてあげるよ」

こうなるともう明日葉の相手をしていると時間がいくらあっても足りないので無視して、止まっていた足を動かし始める。

「あっ、おいてかないでよ、優」

「置いていかないでくださいよぉ」

こんな話をしながら椎葉とはぐれないように歩いたせいかいつも以上に駅まで時間がかかってしまった。

「私、荷物取りに行ってきますね」

「じゃあ、僕と優はここで待ってるね」

「流石にここまで来たら迷わないだろ?」

念のため椎葉に確認を取る。

「大丈夫です、すぐに戻ってきますね」

そう言って椎葉はコインロッカーのほうへぱたぱたとかけていった。

「で?どうして優がこんな時間に椎葉ちゃんと一緒にいるの?優が私服ってことは優の家から来たんでしょ?」

椎葉がいなくなった途端に普段とは違う真剣な表情と声色で気にしていたであろうことを聞いてきた。

「お前に色々話すには椎葉に確認しないと駄目なことが多いから今は無理だ」

「ふ~ん、そっかじゃあいいや、面白いこと聞けるかなって思って

たけどやっぱり駄目みたいだね」

「いちいち聞くなよ。わかってんなら」

「ま、優が隠すくらい大きな相談されたってことが分かったからいいかな」

「別に隠してないぞ。ちょっとお前には教えられないだけで」

「それを隠してるっていうんだよ~」

さっきまでの真剣な雰囲気は何処へいってしまったのか、明日葉は普段と変わらない様子に戻っていた。

「すみません遅くなりました」

明日葉と会話していると思ったより早く荷物を持った椎葉が当たり前かのように俺の隣に戻ってきた。椎葉が持っていた荷物はキャリーケースが一つと肩にかけるタイプの大きめのカバンだった。

「思ったより早かったな、本当に迷わなかったんだな」

「私だって迷わない時ぐらいありますよ十回に一回とかですけど」

「椎葉ちゃんそんなに迷ってるの?」

「俺たちのクラスの教室から昇降口に行くまでで迷うぐらいだからな」

「思ったよりも迷ってた!?」

「その話はしないでくださいよぉ。私だって迷いたくて迷ってるわけじゃないんですよ!」

思っていたより気にしているようで少しムッとした顔で言い返してくる。

「はいはい、俺が悪かったからそろそろ帰るぞ」

「うっ、そうですねこれ以上遅くなるのは危ないですね」

「僕もそろそろ電車来るから行くね、じゃあまた学校でね」

そう言うと明日葉は俺と椎葉に手を振りながら駅の改札に向かう人の中に消えていった。明日葉が見えなくなってから先に口を開いたのは椎葉だった。

「帰りましょうか、詩織さんが待ってますし」

「そうだな、明日葉の事を気にしてたから疲れた」

そう言いながら俺は椎葉の持っている荷物を代わりに持つために椎葉のほうへ手を伸ばすと、椎葉は顔を赤らめながら伸ばした俺の手を握る。

「えっと、椎葉?荷物を持つから貸してほしいんだが」

「えっ?あっ!ごめんなさい、私勘違いして」

そう言うと椎葉は慌てて俺の手を離す。

「いや、何も言わなかった俺が悪いから気にすんな」

そう言いながら俺は今度こそ椎葉の持っているキャリーケースの方の荷物を持つ。

「大丈夫ですか?重くないですか?」

「ああ、大丈夫だぞ、そんなに重くないからな」

実際に見た目よりも全然軽い。こんなに大きいカバンが必要なのかが不思議なくらいだ。

「本当に荷物入ってるのか?」

「ちゃんと入ってますよ。中に入ってる物が少ないだけですよ」

思っていた通り中身が少ないようだった。

(女子ってもっと荷物、必要じゃないのか?)

普段泊まりに来ている詩織の荷物の量を見ているからか、椎葉の荷物の量の少なさが少し気になる。

(詩織が持ってくる荷物が多いだけかもしれないが)

「本当にこれで荷物全部なんだよな?」

「今、柊君と私が持ってるものの二つだけですよ」

「ならいいんだが、じゃあいい加減本当に帰らないとな」

そう言いながら歩き出すと荷物を持ってないほうの手を掴まれる。掴まれた手を見ると椎葉に手を掴まれていた。俺は思わず「はぁ」と息をつく。

「迷われると面倒だからそのまま掴んでろ」

「まだ何も言ってないですよ!?」

「いいからもう帰るぞ」

「むぅ……」

不満そうにしている椎葉の事は気にせずに、椎葉の手を握り返して手を引く。

「えっ…?」

俺が手を握り返したことに驚いたのか、突然手を引かれたことに驚いたのかは分からないが、気にしないで何も言わずに歩き始める。

「…えへへ」

「何か言ったか?」

「何でもないですよぉ、早く帰りましょ~」

「そうだな」

と短く返事を返して、なぜ椎葉の機嫌が突然よくなったかを考えてみたが全く分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家出少女な転校生 シロン @siron_0820

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る