第11話 明日葉と家出少女(2)

椎葉に対して伸ばしていた手を自分の方へ引き戻し、声をかけてきた明日葉の方へ向き直る。

「お前こそ、なんでその格好でいるんだ?」

今日、明日葉は学校でバイトは休みと言っていたのでコンビニの制服を着ていることを不思議に思った。

「いやーそれがね、バイトの先輩が急用が出来たとかで、出れなくなっちゃったみたいで代わりに僕が出てるんだよ」

「そうか、それは災難だな」

「そうなんだよ、今日はちゃんと勉強しようと思ってたのに」

「はぁ、お前がそう言って勉強したためしが無いだろ」

俺はため息を付きながら答える。

「えぇーそんな事ないよ。僕はいつも真面目にしてるじゃん」

「そうだな、いつも真面目に人のノート写してるな」

「えっ、そうなんですか?」

後ろで話を聞いていた椎葉が驚きの声を上げる。

「そうだよ、そのほうが楽だからいつも優に頼んでるんだよ」

「お前、本当に、たまには自分でやってくれ」

「そうは言ってるけど、優は頼んだら見せてくれるじゃん」

「断ると面倒だからだよ」

明日葉の頼みを断るとその日、一日は機嫌が悪い状態が続くから、それが理由でノートを見せているのだ。見せなくても10分位で終わらせる奴に何で俺が見せないといけないのかは疑問だが。

「ていうかお前、そろそろ戻らなくていいのか?バイト中じゃなかったか」

「ん~ん、帰るところだよ、代わりの人が来たから」

「じゃあ、俺たち駅まで行くんだけど一緒に行くか?」

「え?こんな時間に何しに行くの?」

「色々あるんだよ、後で教えてやるから、一緒に来るか来ないか選べ」

当然、嘘だ。勝手に椎葉の事を話す気は無い。

「わかった、着替えてくるからちょっと待ってて」

そう言って明日葉はコンビニのあるほうへ戻っていく。

今、明日葉と話していたこの場所はコンビニに近くではあるが少し離れている

ここにいたのかは分からないが余り気にしないようにすることにする。

「さて、明日葉が帰りの準備してる間に買い物済ますか」

「そうですね、あまり遅くならないほうがいいですよね」

「明日葉はともかく詩織を待たせるのはあんまりしたくないしな」

「柊君は、詩織さんには甘いんですね」

「別にそんなことはないぞ」

椎葉に言われて考えてみるが明日葉や渚なんかと話をするときと話し方を変えたりしているわけでわない。

「妹だからそういう風に見えるだけだぞ」

俺は思ったことを椎葉にそのまま伝えてコンビニに向かう。

「いいですねそういうの、信頼しあってる感じがして」

歩き出した俺についてきながら椎葉はそんなことを口にする。

「小さいころから一緒に過ごしてきたからな、そろそろ兄離れしてほしいがな」

「さっき会ったばかりですけど兄離れはできそうになさそうですよね」

そんなことを話しながら買い物を終わらせると会計が終わったタイミングで私服に着替えた明日葉が出てきた。

「ごめんちょっと遅くなっちゃった」

「大丈夫だ、買い物があったからちょうどいいくらいだ」

「そうなんだ、よかった~じゃあ行こうか」

俺も椎葉も明日葉の言葉に返事をして少し遅くなったが駅にまた向かい始めた。

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