第10話 明日葉と家出少女(1)

着替えを終えて自分の部屋から出るとリビングから笑い声が聞こえてきた。会話は何を話しているのか、分かってはいなかったが部屋にいる時から聞こえていた。詩織が椎葉と話が出来ているようで安心した。

(今日は、詩織がいてくれて助かったかもな)

と思いながら時間を確認するためにポケットに入ったスマホを取り出し画面を見ると19時30分と表示されていた。

(さっさと行ってこないと遅くなりすぎるな)

思っていた以上に遅くなってしまったので、

荷物を取りに行くために椎葉を呼びにリビングに向かう。

「椎葉、少し遅くなったけど今から行くけど大丈夫か?」

とリビングに入りながら椎葉に聞く。

「あっ、はい、私から言ったことなので、大丈夫です」

椎葉はすぐに返事をしてきた。

「行ってらっしゃい、プリン買ってきてね」

リビングから出るタイミングで詩織から念を押される。

「それはもうわかったから、お前は風呂の準備しといてくれ。」

「んっ、わかった」

俺と椎葉が戻って来てからでは、遅くなってしまうので詩織に風呂の準備を頼んでおく事にした。

「それじゃあ、ちょっと行ってくる」

「はーい、椎葉さんも行ってらっしゃい」

椎葉は少し驚いたが照れながらも詩織に行ってきますと言った。


「そういえば、荷物ってどのくらいの量なんだ?」

買い物もしなくてはいけないのでどちらを先にした方がいいかを考えるため、気になっていた荷物の量を聞くことにした。

「え〜と、キャリーケースがひとつと大きめのリュックがひとつです」

「それじゃあ、先にコンビニに寄ってもいいか?」

「はい、大丈夫ですよ」

駅に向かう道にコンビニは無いので、少し遠回りになってしまうが荷物の量を考えて、先にコンビニに行くことにした。

「迷わないように気をつけろよ」

マンションを出て歩き始めてから先に口を開いたのは俺だった。

「私でも、そんなに何回も同じ道で迷わないですよ」

「学校で未だに迷ってる奴が通るのが2回目の道を覚えられるわけないだろ」

「学校はそんなに迷ってないですよ。そんな風に言うなら帰りの時みたいに手を繋いで下さいよ」

椎葉の言った事を聞いて黙って手を彼女の方に手を伸ばす。

「えっ?」

俺が素直に手を出した事に驚いたのか椎葉から声が漏れる。

「いいんですか?」

「もう暗いんだから、迷ったら女子1人じゃ危ないだろ」

椎葉から言い出した事なのに少し恥ずかしそうにしながら俺の手に自分の手を伸ばしてくる。

「あれ?優じゃん何してんの?」

突然、後ろから声をかけられ振り向くとそこには、コンビニの制服を着た明日葉の姿があった。

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