最終話 バーベナのせい
~ 四月七日(日) ~
バーベナの花言葉 家族の団らん
「二週間分の、ほっちゃん成分吸収~~~~!」
「ママ成分吸収~~~~!」
せっかくの春休み。
だというのに、ほとんど一緒にいられなかった反動で。
朝からおばさんと、ずーっとくっ付いているのは
軽い色に染めたゆるふわロング髪を下ろしっぱなしにして。
パジャマのままで。
ピンクのバーベナが飾られたダイニングにいるのですけど。
「……さて問題です。俺は春休み最終日に、どうしてここで袋焼きそばなど作っているのでしょう?」
「だって、こうしてたらフライパン振れないじゃない」
「焼きそばの袋すら破けないの」
この呆れた親子。
俺を呼び出して、掃除に洗濯。
果てはお昼ご飯まで作らせて。
「そんなに離れるのが嫌だと、穂咲は一生お嫁になんか行けないのです」
「なに言ってるのよ道久君」
「え?」
「あなたが婿に来ればいいじゃない」
「おばさんの方が、なに言ってるのよです」
「あるいはお嫁さん」
「ほんとになに言ってるのよ」
付き合いきれません。
とは言え、二人がくっついているのには。
俺も賛成なわけでして。
仏壇で苦笑いを浮かべるおじさん共々。
つい甘やかしてしまう訳ですが。
「よし! ほっちゃん、夏休みには旅行に行きましょう!」
だがしかし。
その発言は却下なのです。
「お金が貯まるまでは我慢して欲しいのです」
「うむむ……。じゃあ、ちょっと変更!」
「是非」
「夏休みには、まーくんとこのお金で旅行に行きましょう!」
「そこじゃなくて。期日を改めなさいな」
まーくんだって、さすがに怒るでしょうよ。
甘え過ぎなのです。
「学費が貯まって、進学が決まって。落ち着いてからにすればいいのです」
「そうなの。夏休みなんてこと無いの」
「そうそう、そうなのです」
「ゴールデンウィーク中に行くの」
「ばかばか、ばかなのです」
フライパンを揺すりながら突っ込みを入れると。
穂咲の顔が膨らむ音が聞こえたのですが。
バカって言われるに値する発言だったでしょうに。
「むう! バカじゃないの! お金をかけずに旅行に行けばいいの!」
「また異世界ですか?」
「そいつは却下なの。あれ、自分でやろうとするとお金かかるし」
「確かに。……ゲーム、無料で出来て良かったですね」
パソコン代にゲーム代。
電気代だって大変なことになると聞いていますし。
その点、全部まーくんが準備してくれて。
いつもいつも、頭の下がる思いです。
「楽しい旅行だったの」
「まだそれを言いますか。まあ、素敵な体験でしたけど」
「大冒険だったの」
そして、俺と穂咲が思い出話を始めると。
おばさんが、口を尖らせて文句を言ってきました。
「でもゲームなんかしたら、家族の時間が減るわよ?」
そう、減る。
減ったせいで。
今の罰ゲームの様な状況が発生しているのですけど。
でも。
俺は具も入っていない焼きそばを大皿によそって。
青のりをふりかけながら、おばさんに教えてあげました。
「おばさんたちにとってはそうなのでしょうけど。親子で過ごす時間が欲しくてゲームをする家もあるらしいのです」
「……ああ、なるほどね。共通の趣味を作るってことね」
そう。
親子のコミュニケーションというものは、減っていくのが当然で。
だから会話をするきっかけとして。
ゲームというものは、結構役に立っているのだと思います。
「……そう言えば、道久君のお父さんもゲームやるのよね? コミュニケーションしようとしてるから?」
俺が割り箸を渡すと。
おばさんはパキリと二つに割って。
綺麗に割ることができない穂咲へ手渡します。
「いえ? 俺がゲームしないから共通の趣味じゃないのです」
「そうなの?」
「はい。接点と言えば、飽きたゲームを俺の部屋に置いて逃げる父ちゃんに罵声を浴びせるくらいのものです」
俺の部屋を物置代わりにしてるだけ。
ただの迷惑行為。
そう思いながら、コップに入れたお水を渡して席へつくと。
「……実は、おすすめのゲームを遊んで欲しくて。その感想とか話したいんじゃない?」
予想外なことを言われて。
ドキリとしてしまいました。
「どうなのでしょう。……でも、しばらくはやりませんので」
「なんで? やってあげなさいよ」
「いえ。進路、考え直すことにしたので」
ああそうだったわよねと。
少し寂しそうに微笑むおばさんは。
焼きそばを不器用にすする穂咲の頭を撫でながら。
優しく聞くのでした。
「私はゲームできないから、もうほっちゃんには遊んで欲しくないけど。あなたはゲーム続けるの?」
「あたしももういいの」
「あらよかった」
「でも、ゲームってびっくりだったの」
「びっくり? なにが?」
穂咲の返事に、安堵のため息を漏らしたおばさんでしたが。
そんな表情が一変します。
「ゲームで、りこぴんとほそヤング君がお付き合いすることになったの」
「え? お付き合い?」
「普通の生活してたら絶対に生まれなかった組み合わせなの。ゲームは、二人のキューピッドなの」
「ちょっと! 二人ともすぐにまーくんのとこに行ってゲームしてきなさい!」
おばさん。
さっきと言ってることがまるで逆。
……第二形態?
「もうやりませんって」
「もうやらないの」
「わがまま言ってないで行ってきなさい!」
いえ、わがままなことを言っているのはおばさんなのですが。
などという文句も言えずに。
俺たちはお昼ご飯も食べることが出来ずに。
家を追い出されました。
「……じゃあ、まーくんとこでお茶でもするの」
「仕方ないですね」
――遠くどこまでも続く青い空の下。
田舎道の桜が、桃色の雪を吹かせる中。
俺たちは、他では味わうことのできない大冒険の。
思い出話に花を咲かせたのでした。
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 19.5冊目🎮
おしまい♪
……
…………
………………
「あれ? ……
「なんて?」
「お仕事、すっげえ辛いって」
「…………あの先輩に振り回されてる姿が容易に想像つくの。心配」
金澤さん。
めちゃくちゃな方でしたもんね。
でも。
「安心して欲しいのです。やりがいあるって。今、雑誌で使う写真を撮るためにつつじ狩りへ行っているそうなのです」
その文章の。
何と楽しそうなことか。
俺は思わず微笑をうかべながら。
お隣りの穂咲を見ると……。
「おどろくほどぶっさいくなしかめ面」
「……違うの」
「違くありません。阿吽の吽の方といい勝負です」
「違うの! つつじ狩りじゃないの!」
……は?
「ちゃんと正解考えるの! あたし、パパに連れられて行ったの、何狩り?」
ああ、言ってましたね。
何かを狩りに行ったって。
「果物狩り?」
「たぶん違うの」
「動物狩り?」
「たぶん違うの」
「紅葉狩り?」
「たぶん違うの」
じゃあ分かりませんよ。
俺はため息と共に。
とっとと降参しました。
「じゃあ、八方ふさがりです」
「たぶん違うの」
いよいよ最上級生になる二人が、いつもの思い出探しに挑みます!
今度のお題は「狩り」。
既に八方ふさ「狩り」の道久は。
思い出したがりの穂咲の記憶を取り戻すことができるのか!?
「それも違うの」
……こ、乞うご期待っ!
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 20冊目🍁
2019年4月8日(月)より開始!
どうぞお楽しみに!
「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 19.5冊目🎮 如月 仁成 @hitomi_aki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます