かつて百年前のアメリカに、フーディーニという手品師がいた。脱出術の天才であり、水中脱出はもちろん空中脱出(!)の創始者でもあった。
フーディーニは愛妻家としても、またインチキ心霊術を次々に暴いた人間としても有名である。余りやり過ぎてインチキ心霊家の恨みを買い、様々な呪いをかけられた。そんな彼の最後は狂信的なファンに腹部を殴打されたことによる腹膜炎だった。ちなみに警察の判断は『事故死』である。
本作の主人公は、そんなフーディーニの真反対といえよう。奇しくもスキャンダルまで好対照だ。
もちろん、いうまでもなく、本作とフーディーニの生涯にはなんの関係もない。しかし、優れた手品小説である本作と偉大な脱出師の生涯とは、写真のネガとポジのように背中を合わせている。