あと3分で誕生日を祝って貰いたい
矢折 瞬
誰か祝ってくれ!
4月8日。午後11時57分。
今日は僕の誕生日です。ついに16歳になりました。
あと3分で誕生日が終わろうとしています。
なのに.........。
「まだ誰にも祝ってもらってないぃぃ!!」
高校入学を控えた春休み中なので、今日一日友達に会っていない。
会おうと思えば会えるのだが、既に友達の高校は入学式が始まっていて新しい学校生活に夢中なのである。
あいにく、僕の高校は入学式が他の高校よりも遅いのだ。
しかも、両親は出張で先日から家を出ているのだ。昨日両親に、前払いのように祝いの言葉をもらっているが、やはり当日に祝ってもらいたい。
祝いのメールを送ってくれてもいいと思うのに、着信はなかった。
「あと3分で誕生日が......ぐぬぬ、何としてでも誰かに祝ってもらうぞ!」
僕の中で熱い決意が固まったのである。
そして、激闘の3分間が始まったのだ。
タイムリミットは3分、直接でなくとも間接的に祝ってもらえれば良い。
つまり、LINEやTwitterで今日誕生日という事を公表するのだ。
しかし、今は真夜中である。友達は明日の高校生活に向けて、就寝時間が普段よりも早かった。
LINEのグループや個チャで、
『 今日、誕生日なんだよね』
と送り、普段ならこの時間も、秒で既読が付いていたが、反応が無かった。
Twitterで呟いてみても同じ結果だった。
ニコ生配信を見ている途中だったから、
『 今日、僕誕生日なんです』
とコメントを流したが、誰一人反応をしてもらえなかった。
スマホの時計は11時59分を示していた。
時間という止めることが不可能な圧力に押されて、焦りと悲しみが湧き上がってくる。
LINEを確認すると、グループで既読が1つ付いていた。
そのグループは元の中学校のグループで、100人を軽く上回っている。
さらに既読が2つに増えた。
そして、コメントが表示された。
『 そうなんだー』
中学三年の時のクラスメイトからの返信だった。
その人は、沢山の男子からモテている人気のある女子からだった。
建前はあざとく、本性は冷淡で、僕と会話をする時はよく皮肉な事を言われていて、好きとは程遠く、苦手で嫌いな人であった。
しかし、今は誰でもいいから誕生日を祝って欲しい気持ちが強いため、
『 誕生日だから祝って!』
と送り、すぐに既読が2つ付いた。
この時には残り20秒を切っていた。
その後、返信は無く既読スルーをされる。
Twitterの方も確認してみるが、あの女がツイートにいいねを付けるだけで、他に反応をしてくれる人はいなかった。
部屋の電波時計に目を向けると残り10秒を切っていた。もうダメだと諦めベットに思い切り飛び込んだ。
悲しみがドッと溢れてきて、卒業式ですら流さなかった涙が、湧き出てくるのを感じても尚我慢する事を試みるが抑えられそうに無かった。
最後の最後に試行錯誤を重ねてみた結果が何も得られないこの気持ちは悲しく、辛かった。
スマホの11:59の表示を眺めていると、LINEのバーが現れて、即座にタップした。
送られてきたLINEは、グループではなく個チャで、送り主は中学の頃ずっと好きだった子からだった。
送られてきた文章は数十行を超える長い文章だった。
冒頭には『誕生日おめでとうございます 』
と言う文字が、これを目にした時はまだ4月5日の間だっただろう。
午前0時を過ぎてからも、長い文章を読み続けると、僕との出逢いから一緒に過ごした事など思い出のある内容が書かれていた。
至る所に誤字脱字があったため、急いで書かれたものだろう。
最後まで読み終えて、結語はこのように締めくくられていた。
『 君の事がずっと好きでした』
この3分間で書かれた文章には彼女の僕に対する思いが込められていた。
最後の最後まで必死に書いてくれたのだと思うと、さっきまで我慢していた涙が頬を伝って零れ落ちていた。
辛かった心は彼女によって穏やかになり、安堵な気持ちが体全体を包み込んだ。
僕は、
『 ありがとう』と返信をして、
『 僕も好きでした』と告白した。
3分間という短い時間のようで、長い時間のように感じていた。
今まで片思いと思い込んでいた彼女と付き合う事になり、その後もしばらくLINEでメッセージのやりとりをしていた時間は長く午前1時を回っていたが、あっという間に短く感じていた。
彼女と話している時間は楽しく、長い事話して初めて気付いたのだ。
今日から彼女と同じ高校に通うことを。
あと3分で誕生日を祝って貰いたい 矢折 瞬 @Shunshunya
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