本を読む時は、目的地に着くまでに

梅干しおにぎり

第1話

目的地に向かうために、電車のホームに立った。

明るく、春の陽気で暖かい。屋根がなくなっているホームの先っぽは空が青く白い雲が屋根になっていた。

本を開いて、電気スタンドの代わりに日の光をいっぱいに浴びる。

初めて開いたその本は、ずっと上着のポケットに入れっぱなしにされていた古本だ。

お腹が減ってる時に読むと、とてもお腹の減る話。

疲れてる時に読むと、寒さが厳しくなる話…続編である本を、昔はほっておくなんてことできなかった。直ぐに続きが読みたくて、手に入れることから必死だった。

しかし、今は手に入れてから開くまで随分と時間が空く。

きっと、歳をとって集中力が落ちたんだ。そう思っていたが、本を開いて最初の一文を読んだ瞬間、唐突に察した。

そうか、何処か楽しみにしている所に出かける時、なにかを楽しみだと感じられている時に本を読むのが好きだったのだ。

高校生までは、旅行でもないのに毎日学校に通うだけで何か待っているのではないかという期待があった。

6年制大学に入ってからは、そう言ったことはなくなり、その職にしかつかない人達だけに囲まれた。

そして、今卒業して煩わしい人間関係を捨て、楽に付き合える人達との旅行の時のみに本の喜びを感じる。

趣味を、前ほどに楽しめなくなったとわかった時、これが大人になるということなのかと緩やかな失望を覚えたことを思い出す。

少しは間違った感想だった。けれど、結局大差無いことに気づいてまた落ち込む。

周りは忙しい職だらけだ。休まない事を、世間が望んでいる聖職者の権化の集まり、といっても過言ではないかもしれない。私が趣味を満足できるほどに、この旅行が頻繁に行われることはないだろう。

溜め息が出た。体内から出て行った息は、私の体には2度と戻ってこなかった。

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本を読む時は、目的地に着くまでに 梅干しおにぎり @umeboshionigiri

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