相違点
第1節
体がだるい。アラームが鳴っている。今日も勤務が始まる。しかし体が動こうとしない。
悪い兆候だ。ここのところ一ヶ月、ずっとこの調子である。だが有給は使えない。すでに使い切ってしまっている。
こうなってしまった理由は思い当たらない。強いて言えば、ついに先月、最後の血縁者が死んだことか。
コダマは血縁者が死ぬ度に、リストに二重線を引き続けてきた。そのノートも真っ黒になった。まるで殺しのリストのようだったが、コダマにとっては「まだ一人じゃ無い」という自分なりの指標だった。
*
「コダマ大丈夫? 最近出勤が遅くなってるけど」
郵政基地でスラッシュが、いの一番に声をかけてきた。
「大丈夫だ」
「でも、いつも早かったじゃん」
「大丈夫だと言ってるんだ」
「……」
スラッシュはいつもコダマのことを気にかけていた。いつもなら軽く流すつもりのところが、今日は荒々しくあしらってしまった。しかし、今の彼にはそれを訂正する余裕も、省みることもできなかった。
余裕が無くなっている。
「ねえコダマ。なんか局長が呼んでいたよ」
「……なんだろうな」
健康管理が出来ていないとでも叱責されるのだろうか。それとも首を切られるのか。後者ならせいせいして良いと、彼は思いだしていた。
*
局長室には二人、人物がいた。一人は局長、もう一人は見たことが無い男だ。よくプレスされたスーツをピシッと着込み、いかにも官僚といったかんじだった。その男は立ち上がり、コダマに右手を差し出してきた。名前を言ったが、コダマはすぐに忘れた。
「……氏は郵政監察官だ」
局長の声が耳にぼわわんと響く。辛うじて聞き取れた役職名に、彼は多少頭がハッキリしてきた。
郵政監察官。郵政省の警察機構。郵便や貯金の横領などの犯罪を捜査する、公社の中でも恐れられている部署である。もっとも、後ろ暗いことが無ければ無関係なのだが。
「運輸局に通報があった。光速船が複数隻、行方不明になったというものだ」
「運輸局に? なら運輸局が出張るもんでしょう」
コダマは寝ぼけたような声で質問した。
「運輸局は運輸局で対応している。が、ことが大きくなりそうなので、運輸局と郵政監察の双方で動くことになったのだ」
「お……私が呼ばれた理由は?」
使い慣れない一人称を使ってしまい、彼は口をかんだ。
「捜査に協力してほしい。君がこの郵政基地でトップクラスの職員だと聞いている。信用がおけるのと、追跡には最適だ」
「追跡?」
「相手は第一世代型の光速船だ。君の駆る第三世代型なら追いつける。郵政監察室は、そういった機材を有していない」
相変わらずぼうっとした頭のまま、コダマは了承した。こんな頭で大丈夫なのだろうかと、彼は考えられなかった。
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