マスターピース
第1節
「なんだってこんな馬鹿でかいものを運ばなきゃならないんだ」
コダマは集積エリアでその日の荷物を目の当たりにしたとき、その部屋にいる誰にでも聞こえるような大声を出した。当然、全員がコダマのほうを見やった。
それは長辺が二メートル、短辺と高さが一メートル半もある、巨大な直方体だった。
「でっかいねぇ」
スラッシュは嘆息した。
「……ああー? 何だこの注意書き!」
コダマはバーコードを機械で読み取ると、目を剥いた。画面には『横倒し厳禁』『上積み厳禁』『天地無用』『なまもの』と、注意書きで画面が真っ赤に染まっていた。
「上積み厳禁って……。え? このサイズじゃ貨物室占拠しちゃうよね?」
スラッシュはどこからか手動のリフトを持ってきていた。
「一件しか回れないじゃないか!」
なんてことだろうと、コダマは天を仰いだ。そして速やかに隣のアオシマの集積エリアに頭を下げに行った。今日中に配達しなければならないものは、この突如現れた直方体以外にもある。だが、貨物室を占拠してしまう以上、誰かに肩代わりしてもらわなければならなかった。アオシマはおそらく快く引き受けてくれるかもしれない。しかし、あと二、三人にお願いをしなければならないと考えると、コダマの胃は締め付けられた。
「いいじゃん。今日はこれ一つでお終いだよ」
スラッシュは鼻歌を歌っている。
「お前は良いよな。調整するのは俺なんだから」
「僕はご飯が食べられて、楽な仕事ならなんでもいいのさぁ」
スラッシュは手動のリフトを押して駐機場まで貨物を移動させている。そのとき、通路の角と直方体の角とがぶつかり合って不協和音を奏でた。
「おい! 取り扱い注意って書いてあるだろ!」
「ぶつけただけじゃん。別に壊れてないよ」
「……」
コダマは腹が煮えくりかえっていた。
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