第2節

 町は空虚だった。活気が無い。どの店も開店しているというより、ただ店先を開けているというふうだった。

 スラッシュはダイナーを見つけた。白い外装の、伝統的なプレハブ造りのダイナーだ。


「……飛び込みで命中する確率って、すごく低いんだよなぁ」


 だが背に腹は代えられなかった。二キロも不毛な道を歩いてきて、腹ぺこだった。スラッシュは薄い、安っぽい造りの扉をガチャリと開け、中へ入っていった。


 ガランガランとドアの鳴子がなる。今にも埃でも振ってきそうな勢いだった。

 店内はそれなりに清潔にされ、テーブル類の表面がピカピカと輝いている。

 人もそれなりに入っていた。だが。


「……」


 店主を含め、客も目を丸くしていた。それもそのはずである。見たこともない巨大なナマコが入ってきたのである。店主は今にもカウンターの裏からショットガンでも取り出しそうな勢いだった。


「一人なんですけど」


 そんなこともつゆ知らず、スラッシュは呑気にかまえていた。


「……お客かい?」


「見りゃわかるでしょ」


「カネはあるのかい」


「無きゃ来ないよ」


「……らっしゃい」


 数度のやり取りで、スラッシュはやっと客だと認識された。彼はカウンター席に体を乗り上げると、メニューを触手で引き寄せた。


「気味が悪いな」


「なんだアイツ……」


「バケモンじゃねえか」


 四方八方から心の無い言葉がかけられる。しかしスラッシュはメニューを見るのに集中していて、まったく気にしていない様子だった。


「おっ。チリがあるのか……。バーガーも一通りあるのね。良いね!」


「ご注文は?」


「ビールちょうだい」


 すぐに五百㎖入りのビールがやってきた。


「ええっとねぇ。チリにクラブハウスにハッシュドポテトにチキンちょうだい」


 スラッシュは流れるように注文した。そしてメニューを戻すと、周囲を見る余裕ができた。


 皆、スラッシュを見ていた。そのうちの男一人が、ゆっくりと席をたって、スラッシュの隣に座った。


「……お前、郵便局員か?」


 男はスラッシュのポーチを指さしていった。確かにポーチは支給品で、郵政公社のマークが刺繍されている。


「そうだけど」


「……ちょっとまっててくれ」


 そういうと、男は駆け足でダイナーを出て行った。他の何人かも、それにつられるようにして出て行く。


「……なんだろう」

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