第3節
「これ! これ出させてくれ!」
「切手貼ってないんだけどさ! 売ってくれ!」
スラッシュはチリコンカンの皿をなめ回しながら、郵便局の客となったダイナーの客達を見やった。
「ええ……」
スラッシュは困惑した。
「そういうの、郵便局に持っていってください」
「郵便局が無いんだよこの星」
「冗談でしょ?」
「正確には郵便局員がいないんだ。転勤しちまってな。引き継ぎがまだ来ていないんだ」
「……僕、今非番なんだけどな」
「頼むよ。もう一ヶ月も待ってるんだ。なのに郵政公社は引き継ぎを寄越さない」
スラッシュは汚れた触手を嘗めて綺麗にすると、男達が突き出してきた手紙を手に取った。
「仕方ないなぁ……承りました。そっちの人、あとで光速船に来て。切手売るから」
——良かった——と、安堵が店の中に広がった。
*
スラッシュは光速船の傍らにテーブルを出していた。机の上には消印と切手入れが置かれていた。
車が複数台やってくる。その車達が船の近くに止まると、人間が降りてきた。
「おお本当にいた!」
「郵便屋だ郵便屋!」
皆、客だった。遠くから来たようだった。
「はい皆さん並んでー」
スラッシュは片端から手紙や小包に消印を押していき、読み取り機で住所を登録していく。あっという間に二十五の荷物や手紙が集まった。
「いやぁ助かったよ」
「星の反対側に送るのにも苦労していたんだ。良かった良かった」
人間達は口々に安堵の感想を言い、車へ戻り、荒野をかけていった。あとに残されたスラッシュは独りごちる。
「本当に、郵便難民なんているんだなぁ……」
日が傾き、地平線の向こうに沈む頃には、郵便物は五十個近くたまっていた。
「うーん」
スラッシュは困った。留守にしている家の人間はまだ戻ってこない。かといって、このまま郵便物を貨物室に放っておくと、配達予定時間に間に合わない。そしてコダマは眠っている。
決心がついたスラッシュはテーブルにメモ紙を書いて残した。
『配達中につき不在にしています』
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