光の巨人

水乃流

さらば、光の巨人

 彼が地球上で活動できる限界は三分間。わずか三分間でしかない。

 三分間という、限られた短い時間の中で、彼は様々な敵と戦い地球の平和を守ってきた。地球侵略を狙う異星人、機械文明を発達させすぎた結果生み出された自我を持つ破壊兵器、何万年もの眠りから覚めた巨獣、地球の覇権を求め地上に攻め込んできた地底人――その悪しき欲望のすべてを、彼は打ち破ってきた。

 だが、鋼の肉体と驚くべき超能力を持つ超人であっても、強敵たちとの闘いで少しずつ体力を削られ、力も衰えていった。

 そしてついに、その時が来る。

 あと一度、次の出撃が、彼の最後の戦いとなる。最後の三分間。だが、最後の敵は、これまで以上の強敵であった。彼と同様、いや彼の力を上回る力を持つもの。だが、彼のように心は持たず、ただひたすら内なる破壊衝動のまま、周囲のあらゆるものを破壊していく――破壊神。

 強大な敵に対し、全身全霊を持って彼は戦った。そして、ぎりぎりになって必殺技を放った。これまで幾多の敵を屠ってきた必殺技。光の奔流が、敵へと突き刺さる! だが、見よ! 敵は、倒れていない。必殺技を物ともせず、立ったままだ。その表情は読み取れないが、まるで彼をあざ笑っているかのようにも見える。

 己のすべてをかけて放った技が、敵に通じない。過去にも、彼の必殺技が効かない敵はいた。その都度、彼は勇気と知恵でそのピンチを乗り越え、敵を倒してきた。だが、今、限界を超えて戦った彼に、反撃する力は残っていなかった。


 ゆっくりと、彼は前のめりに頽れる。巨体が倒れ、大地が揺れる。まるで、大地が泣いているようではないか。立て、立ってくれ! 地球人は、彼の名を呼び叫ぶ。彼が、彼だけが地球の希望だ。彼が倒れてしまえば、地球はどうなる? 残虐な侵略者になすがまま、隷属するしかないのか? 暴虐無人な魔物たちに殺戮されるのを待つだけなのか? 人々は、改めて思う。自分たちは守られていたのだと。見守るしかできない彼らの心の中に、これまで彼が戦ってきた姿が走馬灯のように映し出される。あの時も、あの時も、あの時も。彼は身を挺して地球を護ってくれた。そして、今、自らの命をその代償として支払おうとしている。

 ――それでいいのか? このまま彼を見殺しにしていいのか? 地球は、地球人は護られるだけで何もせず、彼の死を見つめるしかできないのか?


 否!


 今こそ人々は、自らの力で運命に抗う。


 たとえ、ひとつひとつの力は小さくとも。

 たとえ、嵐の前に差し出された蝋燭の火のような小さな力であっても。


 人々は立ち上がる。彼の愛に応えるために。


 うわーーーっ!“

 うぉぉぉーっ!


 小さな叫び声は、やがて激流となる。

 これまで、数々の戦いで彼と伴に戦ってきたチームが、絶望の淵から立ち上がり、人々の先頭に立って破壊神へと向かって行く。


 小さな者共の、蟷螂の斧がごとき反抗に、最初は見下しあざ笑っていた破壊神も、絶え間なく襲いかかる攻撃に怯み始める。


 乾坤一擲。

 人間の放った一撃が、破壊神の弱点に突き刺さる。本来であれば、破壊神を傷つけることなどできない、小さな力であった。しかし、その前に彼の必殺技が、その弱点を護る力を弱体化させていた。


 グォォーーンッ!


 破壊神の体内で、力が暴走する。破壊神は、自らの力を抑えることができず、そしてついに爆散する。

 勝ったのだ。地球人は、自らの力で地球を護りきったのだ。だが――彼はもう戻ってこない。大地に倒れた彼の瞳にはすでに光はなく。巨大な身体は二度と立ち上がることはない。


 その時であった。


 虚空から、突如光が舞い降りてきた。

 暖かな光。慈愛に満ちあふれた光は、やがて見守る人々の魔で、ゆっくりと彼の上へと舞い降りた。光が、彼を包み込み、ゆっくりとひとつになると、光は再び上昇を始めた。


 人々は思った。彼は、彼のいるべき場所へと帰るのだと。


 ありがとう。ありがとう。

 地球が愛で満たされていく――。


※※※


「はい、これ」

あ、ありがとうございます。やっとですか。長かったなぁ。

「一年ぶりですか?」

えぇまぁ。やっと肩の荷がおりますよ。で、後任は?

「それがねぇ、手違いがありまして。次は一年後になっちゃうんですよ」

うわぁ、そうなんですか。心配だなぁ。

「一年くらいなんとかなるでしょ。外からの侵略も打ち止めみたいだし」

うーん、自滅の可能性があるんですよ。

「やっかいですねぇ」

まぁ、これからもちょくちょく見に来ることにしますよ。


 約一年ぶりとなる休暇の許可証を手に、彼は小さくなる地球を見つめるのであった。

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