第二十五話 入室! ここでまさかの。


 静かに、スライドドアが開けられた。

 白色で、ガラス窓が付いている。今更だけど、学校では定番のドアだ。


 ここはまだ、保健室。


 浩子ひろこ先生と智美ともみ先生、そしてたえちゃんと、わたしがいる中で……近づく足音。


 そして、


 そして目の前まで、近づいてくる。

 男の子……


「智美先生、自習時間が終わりました」

 と、言うのだ。言ったのだ。


 先程のイメージとは違うの。ガッチリとした大柄な子。少し怖い感じの子……とは、まるで違っていて、それどころか綺麗な顔立ち、わたしと同じくらい? の身長で。


「ありがとう、宏史ひろし君」

 との、智美先生の和やかな言葉で、ハッとなった。


 もしかして……と思いながら、


「あ、あの……」

 と、消えそうな声だけれども、その男の子は……宏史君は、


瑞希みずきちゃん、久しぶりだね」

 と、笑顔の見本みたいにニッコリと、声をかけてくれたの。……間違いないよ。


「やっぱり宏史君、元気そうだね」


 前の学校で一緒だったの。

 よく女の子と間違われて、泣かされていた宏史君が、逞しくなって男の子っぽくて。


 で、早速と、


「瑞希ちゃん、この子と知り合いだったの?」

 と訊いてくるの、妙ちゃんが。


 それもそのはずで、わたしと宏史君の関係を、妙ちゃんは知らなかった。

 ……そう。妙ちゃんだけが知らなかったのだ。


「うん、前の学校で。お兄ちゃんの同級生の弟ちゃんなの」

 と、わたしは答える。

 これだけで、わかるのかな? と、片隅には思いながらも。


 すると、宏史君は妙ちゃんに、


「四年二組の平田ひらた宏史です。よろしくね、佐藤さとうお姉ちゃん」

 と、挨拶するのだ。丁寧に……


 佐藤……って、あっ、名札見たのね。そう思うとクスッと笑えて、そんな中を、


「あたしは佐藤妙子たえこ。よろしくね、宏史君」


 握手。妙ちゃんと宏史君が握手している。……何か変なの。

 何だろう? 顔が少し熱くなってきたの。



「宏史君、もう一つお願いがあるの」

 と、智美先生から。宏史君は聞く、


「瑞希さんと妙子さんね、今日は早退するから、教室まで送ってあげてほしいの」と。


「はい」という返事のすぐあと、宏史君は、わたしの顔を見るなり、クスッと笑って、


「じゃあ、それから僕は、瑞希ちゃんと妙子さんを下駄箱まで送るよ」


「ありがとう宏史君、そうしてくれると、先生助かるよ」

 ニッコリと、智美先生はそう言った。そして、わたしと手を取り宏史君は、


「じゃあ、瑞希ちゃん」と、間近でわたしの顔を、


「それに妙子さん、行こうか」と、その場から、わたしよりも距離を置いて、

 妙ちゃんに言った。そして合唱のご返事だよ。「うん!」と、元気よくね。



 宏史君は、とても優しかった。


 言っていた通りに、わたしたちを保健室から教室。教室から下駄箱まで送ってくれた。


 わたしは魔法少女が大好きだけど、ヒーローものも大好きで、戦隊ものも併せて三本建てで毎週欠かさず見ている。今の宏史君の特徴を語るとすれば、まさにその、ヒーローもののレギュラーメンバーに出てきそうなくらい超カッコイイの。


 ……と、そのようなことを思いながら、

 堂々と学校の正門から出て帰り道、妙ちゃんと一緒に歩いた。


 でね、わたしの顔を見るなり、


「うふふ……」

 って、笑うの。


「あの、妙ちゃん、どうしたの?」


「あっ、ごめんね。瑞希ちゃんの顔、赤いから」


「わかる?」


「わかるよ」


 どうしてなのかな?

 宏史君のことが頭から離れない。


 それに何か……ドキドキするの。


「ねえ、瑞希ちゃん」


「は、はい……」


 あ、あれ? 返事までおかしくなっちゃった。


「はは~ん、やっぱりね」


 どういうこと?


「瑞希ちゃん、宏史君のこと好きになんでしょ」


「え、ええっと……ええっとね、

 瑞希はね、妙ちゃんが好きで、お兄ちゃんが好きで」


 あ~ん、どう言ったらいいの?


「でも、それとは違って、何かどきどきしてくるでしょ?」


 やだ、その通りだよ。


「う、うん……」


「それって、『恋』っていうの」


「……『恋』?」


「そう。あたしも同じだったの」


 わわっ、妙ちゃんってすごい。

 やっぱり、わたしよりも大人。


 ……ん? 待って。


「あの、妙ちゃんの『恋』の人って?」


「もちろん、瑞希ちゃんのお兄ちゃん」

 と、妙ちゃんにしては珍しく、胸を張ってハッキリと。


 でもね、最近はね……珍しくなくなったね。


 ……それにね、

 そうだったの?


 じゃあ、


「妙ちゃん、瑞希のお姉ちゃんになるんだね?」

 と、言った途端、妙ちゃんは急に笑い出して、


「ひど~い、瑞希、真面目に訊いてるのに……」


「だ、だって瑞希ちゃんが急に、お子様みたいなこと言うんだもん」


「フン、どうせ瑞希はお子様おこちゃまですよ」


 わたしは、ふくれ面になったけど、


「それもいいかな?」


「えっ?」


「瑞希ちゃんのお姉ちゃん」


「妙ちゃん?」


「こんなに可愛い妹だったら、お姉ちゃんになってあげたいの」


「うん!」


 嬉しさ満載。しかしながら……


 並んで帰り道を歩くには、お空はまだ朝の情景を残していた。



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