第十七話 轟く雷鳴! 踊り場で。


 ……平田ひらた先生、瑞希みずきちゃんのこと心配じゃないの?



 瑞希ちゃんは、泣きながら教室を飛び出したのに、

 後を追う素振りもなく、何事もなかったかのように、平田先生は教室を静かに出た。


 ストレートに、

 そのまま、……職員室へ向かっている。きっとそう。


 そう思っていると、


「チクったらどうなるか。これでわかっただろ」

 大西おおにしさんは、それだけ言って、帰って行った。……ランドセルも背負って。


 ほとばしる雷の光、炸裂する雷鳴のように、戦慄せんりつが走った。



 ――でも、今はそれどころではない。ほおっておけない。瑞希ちゃんは、とても傷ついているよ。――捜索している、捜している。……でも、どこへ行ったのだろう?


 お友達なのに、彼女の行きそうな場所が、わからない。


 ……見当つかない。ただ、まだお家に帰ってないと思う、家路にも、下校もしてないと思う。……じゃあ、まだ学校の中。自分のことではないのに足が向く、駆けてゆく。


みつるさんなら知ってるかも、……あたしの知らない瑞希ちゃんの行きそうな場所。お兄ちゃんと満さんは同じ六年生で、一緒のクラスだったね)


 あたしと瑞希さんは四年二組。

 お兄ちゃんと満さんは、六年三組で……新校舎。つまり、あたしたちの教室がある旧校舎から新校舎へと駆け上がる。六年三組も三階にあるから。


 ――すると、お兄ちゃんがいた。


 六年三組の教室、スライド・ドアの前に立っていた。そして同じ廊下に……



 すぐに気づいてくれて、


「どうした妙子たえこ、何かあったのか?」


「満さんいる? 瑞希ちゃんのことなんだけど……」


「ちょっと待ってろ」


 と、お兄ちゃんは、目の当たりのスライド・ドアをオープンし、中へ。……で、一分もしないうちに、満さんを連れてきてくれた。……目の当たりまで。


「妙子ちゃん、どうしたの?」


 と、満さんは訊く。……でも、多くは語らない。満さんに心配かけたくないから。だから一言、せめて二言まででと、


「瑞希ちゃんを捜してるの。それでね、瑞希ちゃんがいつも行きそうな場所とか、知ってるかな? ……と、思って」


 クスッという感じの囁きが聞こえて、


「一緒に行こうか?」と、満さんは訊くけど、


「あ、ありがと。でもでも、女の子同士が良いと思うの」



「じゃあ、旧校舎の屋上前の踊り場へ行ってごらん」


「えっ?」


「きっと瑞希は、そこにいると思うよ」


 笑顔で穏やか、さっきまでの不安が軽く、「ありがと」と、足取りも軽くなって、手を振りながら、満さんに手を振りながら駆け出す。階段を駆け下り駆け上がり、新校舎から旧校舎へループして、三階から更に階段を上ろうとした時、


 クスン……と、泣き声が聞こえた。


 ――足を留める。


「瑞希ちゃん、いるんでしょ?」

 と、声をかける。


 すると、


「……こ、来ないで」


 声が聞えてきた。

 やっぱり瑞希ちゃんの声。泣き声だった。


「どうして?」


「……怖いの」


 何故かはわからない。でも、とにかく階段を上がる。


 その場所は満さんの言っていた通り、旧校舎の屋上前の踊り場……瑞希ちゃんは、膝を抱えて座っていた。ガタガタと小刻みに、瑞希ちゃんの体は震えている。


「一緒に帰ろ」


 と、あたしが声かけると、瑞希ちゃんは抱きついてきた。

 まるで小さい子供のように、声を上げて泣き出した。――しっかり抱き留める。


「もう大丈夫だからね」


 あたしは、瑞希ちゃんを抱き留めた。頭も撫でてあげながら。



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