第十三話 Xマスイブなのもあり、告白のような展開に?


 ……前回に引き続き、瑞希みずきちゃんのお家。

 まあ、正確にいうのなら北川きたがわさんのお家。


 男の子が一緒。

 たぶん今まで、二人きりだった。


 男の子は「瑞希」と、下の名前で彼女を呼んでいた。

 とても仲睦まじい感じで、それにね、


『とてもカッコいいじゃないですか!』


 やっぱりやっぱりやっぱり! それも、それも十歳未満で。

 まさかのボーイフレンド?


 そして今、同じお部屋で、

 あたしを入れて三人。……人生ゲームでもするのだろうか?


 ある種の怨念ともいえるような、

 ジェラシーいて、ヘアーカラーのスプレーのように。


 いやいやいや、そうではなくて、あまりの衝撃と、恐らく彼女の一番の秘密に、

 その瞳の奥まで届けとばかりに、

 お友達として、さりげなくエールを送ろうとしたら、


「瑞希のお友達?」

 と、心構え待たずに男の子は訊いてきた。



「は、はい!」

 と、返事。声、上擦うわずった。でも一足お先? 或いは被せて、


「うん、そうだよ。お兄ちゃん」

 と、瑞希ちゃんも答える。


 ……何も、間違いではない。確かに男の子は、彼女に質問したのだから。それでも『顔から火だ』と表現できそうなほど熱くなる。そんな中に於いても「お兄ちゃん?」と、胸中から飛び出し声として成立してしまった。


 そこで、『完コピのようなニコちゃんマーク』の顔で、


「瑞希のお兄ちゃんだよ、妙子ちゃん」

 と、言って……あっ、紹介までしてくれたのだ。


「ま、まあ、あは……あはは……」

 まさかね……そう来るとは。


「えへへ……」

 恥ずかしさを誤魔化ごまかすのに笑っているのに、彼女もつられて笑っている。



 ――で、颯爽さっそうと、

 男の子……瑞希ちゃんのお兄ちゃんが、


「初めまして。瑞希の兄、みつると申します。瑞希のこと御贔屓にとも、常々感謝の感謝の思いにありまして……」

 と頭を深々、四十五度以上。


「お、お兄ちゃん、硬すぎだよ。妙子たえこちゃん、ドン引きしちゃってるよ」

 との、瑞希ちゃんの言葉が、あたしの様子を物語る。


 瑞希ちゃんのお兄ちゃん、お兄さん、……のちのことを考えたら、やっぱり満さん。これで定着だ。ここは三段活用で方程式のように導き出す。あたしはね、瑞希ちゃんと違って算数が得意。そこで頭を上げた満さんが、あたしのドヤ顔を見ることとなった。


「ハッ」としたけど、


「ははは……参ったな。瑞希に言われたよ」



 満さんは笑っている。……クスクスと、あたしもつられて笑い出した。


 満さんは優しそうな人で、それに人気絶頂で社会現象……少なくとも、あたしたちくらいの女の子で、知らない子がいないというアイドルグループの『ジョスJOS』にいそうな男の子。……きっと女の子から、もてるのだろうなあ。


 なら、瑞希ちゃんも負けてはいない。子役でテレビ出演しても問題ないくらい可愛い子だ。ちょっとぽっちゃりさんだけど、それもまた魅力的だ。


 それにしてもこの兄妹きょうだいのルックス、


『どんだけレベルが高いのだろう?』

 と、先程のようなジェラシーを腹で感じながらも、そう思った。


「妙子ちゃん、どうしたの?」

 目の前に、瑞希ちゃんの顔があった。


 ヌッといつの間にか。とても近い位置なので、ビックリして、

 何か言わなければいけないと思って、


「あっ、あの……」


 ダッと満さんの駆け寄り、一歩も満たない僅かな距離だけど、


「さ、佐藤さとう妙子です! 満さん、ど、どうぞ、よろしくお願いします」

 という具合に噛み噛みで、

 おまけに四十五度以上のお辞儀も成立して、


 またまた「硬すぎだよ、妙子ちゃんまで」と、倒置法になってしまった瑞希ちゃんの声も、聞こえるけど今はそれどころではなくて、そっと、本当にそっと頭を上げ、満さんの顔が視界に入ったあたりで、


「よろしくね、妙子ちゃん」


 優しい声。優しい顔だけれども、あれ?

 少し赤い。もしかして満さん……で、またまたヌッと、


「妙子ちゃん顔赤いよ。大丈夫?」

 と、顔を近付けつつも、瑞希ちゃんは見たままあるがままを言っただけで、


「あは……あはは」

 と、また同じように言葉にならず、本当に恥ずかしい。


 そんな中でもまた、


「あの、妙子ちゃん」

 と、声をかけてきて……って、声が男の子。あたしはドキッとした。


 み、満さん?


「は、はい」


「可愛いね」


 今度はあくまで落ち着きの笑顔。やっぱりカッコいい。やだやだやだ、満さんまで顔が近くて、瑞希ちゃんの前で恥ずかしすぎるよ。


「ねえ、妙子ちゃんって、もしかしてお兄さんがいる?」


「はい、おりますが……」


まもる君って名前だよね?」


「そうですが。お兄ちゃんのこと知ってるの?」


 この辺りで、

 意外と、真面まともに受け答えができているあたし。


「僕のクラスメイト。妙子ちゃんのお兄ちゃんと大の仲良しでね、今日もサッカーの約束をしてるんだ。いつもね、可愛い妹がいるって、自慢してたよ」


「か、可愛いだなんて……」

 両サイドの頬を、手で押さえる。やっぱり熱くて、……瑞希ちゃんが口を挟む。


「良かったね、妙子ちゃん」


 意味を知ってか知らずか、

 瑞希ちゃんは、そう言った。ほんのりと頬が赤くなっている。


 そんな彼女に満さんは、


「ということで、お兄ちゃん行くから、妙子ちゃんと仲良くしてるんだぞ」


「はい」とは言わず、


「うん、行ってらっしゃい」と、手を振る満さんを見送る瑞希ちゃん。


 そして玄関のドアが閉まると、


「えへへ……」という感じで、待ってましたと言わんばかりの表情で、


「じゃあ、瑞希といっぱい楽しもうね、妙子ちゃん」


「う、うん」

 あたしは、ちょっと押され気味だ。



「何して遊ぶ?」

 と、颯爽たる瑞希ちゃんの質問。ここは『パンダさん』のいる部屋でもある。

 パンダさんを眺める中に於いて、編みかけのマフラーかな? を、発見した。


「あ、編み物」


「したいの?」


「うん」


「じゃあ、瑞希が教えてあげるね」


 こうして同じ部屋の中、一緒に編み物を始める。

 瑞希ちゃんのふっくらとした横顔が近くにある。……そして、優しく教えてくれた。



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