第五話 これは日記帳のお話なので、時間軸は明確に。
……と、いうことで、
前回の、もちろん続きで、その日の夜。
鈴虫の穏やかな調べを聞きながら窓の隙間、カーテン越しに流れる風。豆電球のボヤッとした
わたしは、天井を眺めていた。
同じお
スヤスヤと……寝息が聞こえる。
そう。パパが
ママが言った。
あの金曜日の、もうすぐホラー映画がテレビで放送するような夜の九時前、
もうすぐ別々のお部屋で、
わたしとお兄ちゃんが別々のお布団に寝るのだって、そう言ったの。
……グスッ。やっぱり寂しいよお。
でもね、でも大丈夫。寂しくなんかないよっ。
――ほらね、
見えてきたでしょ。
ここから数時間前の出来事は、あくまで結果オーライ。それでもいいの。
わたしは
我が家の浴室で、シャワーを用いて、洗いっこをした。
洗濯物……つまり、妙子ちゃんのお洋服、下着まで仲良く干してある。何も言われていないの。お兄ちゃんもママも、きっとだけど気づいていないと、……そう思うの。
並んで干してあるお洋服のように、
たとえ
初めてのお友達だから、瑞希のね、
すべてを見てほしかったの。……でもね、妙子ちゃんは違っていたの。
「……驚いたでしょ?」
その言葉通りだった。スポンジで、背中を洗おうとした時だ。妙子ちゃんの。
虐待?
それとも、ホラーめいた今日のトイレの出来事と、何か関係があるの?
その他にも、様々なワードが浮かぶ。
処理は不可。子供の域を超えている。
わたしには、言葉にすることさえもできなかった。
「……そういうことなの。だから、わかるよね?」
と、妙子ちゃんは言った。
それでも、そんなのって。
「やだ!」
妙子ちゃんは振り返った。
「瑞希ちゃん?」
「やだやだ! 妙子ちゃんとお友達になれないなんて……」
お友達つくるって、指切りげんまん。
あれほどパパと、約束していたことだったのに。
「瑞希、本当にひとりぼっちになっちゃうよ……」
やっぱり泣いちゃった。
それも声を上げて。
「……あっ、ごめんね。今度は瑞希ちゃん、洗ってあげるから」
アタフタと、困っている妙子ちゃんを尻目に、
コクリと
ちゃっかりと。……それでも、
「瑞希ね、お友達できないの……」
クスン、クスン……と、
涙を拭いても、泣き止むことができないの。
「あ、あたしも、そうなの……」
「妙子ちゃん?」
と、ビックリした。
シャワーのお湯、流れたまま……。手と手を
近かった。丸い眼鏡のないパッチリした目。その瞳に、わたしが映っている。
「瑞希ちゃん、あたしとお友達になってくれるかな?」
「うん、もちろん!」
ウェルカムだよ。
もう泣き止んだ。
……それからは、
楽しい時間だった。髪を乾かせば、お下げの
……それでお洋服が、先刻の痣を隠していた。
心配という言葉。
ストレートに出ないその言葉の代わりに、小さな胸騒ぎ。
地震の余震が繰り返される、そんな感覚だ。
――それさえなければ、もう最高の状況! 百合でも構わない。
楽しい時間は流れるのが速くて、
もう
それを惜しむようにして、
「瑞希ちゃん、楽しかったよ」
「瑞希も楽しかったよ。明日、また学校でね」
「うん。明日ね」
にっこりと、手を振ってくれた妙子ちゃん。
ここへ来た時よりも、見違えるほど元気だった。
わたしたちは、約束した。
それは当たり前といえるくらい小さなことだけど、かけがえのない大きな約束。明日になったら、お友達に会える。そのための宣言なのだ。
「瑞希、眠れないのか?」
同じお布団の中、お兄ちゃんの顔が近くにあった。
やっぱりアイドルグループの『
「うん、明日が楽しみなの」
「いいことでもあったか?」
「うん、とっても……」
「そうか」
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃん、瑞希のこと好き?」
「ああ、大好きだ」
「……良かった」
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「ひっついていい?」
「ははは……瑞希は、まだお子様だな」
「お子様だもん」
ひっついた。お兄ちゃんが頭を
「温かい……」
「じゃあ、もう寝るぞ」
「うん……」
きっと寂しかったのだと思う。
でもね、お兄ちゃんがそばにいてくれたから、わたしはぐっすりと眠ることができた。
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