第六話 日記帳のお話といえば、やはりこの展開なの。


「あの……瑞希みずき先生」

 と、リンダさんのやいばのような鋭い一声ひとこえと視線によって、時間軸が急変。


「な、何でしょう?」

 と、リンダさんに少しばかりの恐怖をいだきながらも、現在に進んだ。……いや、日記帳につづられている時間からは、遠い未来へと進んだのだ。



 ――これこそ本当に『旧校舎きゅうこうしゃ魔法少女まほうしょうじょ玉手箱たまてばこ日記帳にっきちょう』の流れを引き継いだ物語だと断言できる。そうであるならば、……前作で、日記帳の持ち主は判明している。


 だからこそ、ホッとした。


 これからはミステリーを意識することなく、躊躇ちゅうちょすることもなくおおいに語れるのだ。



 第五話で試した通り、西暦と月日を入れることによって、

『時間軸の入り乱れ!』を解消することができると思えた。


『わたしは、これからも読み続けて、

 語り続けるから、是非ぜひともそうあってほしい』と、心から願うばかりだ。


 で、本題に移るとするが、

 前作の『旧校舎の魔法少女』をモチーフとした四季の日記帳は通り過ぎ、その先にある新たな日記帳が二冊目を迎えるに至った。まあまあまあまあ、ややこしいようだが、累計するならば六冊目だ。前作とは、もう目的が異なったものになっている。



 つまり、日記帳に綴られている『現代』も、

 二〇一六年の『遠い未来』のこの場所にいても、

 日記帳の持ち主は、わたしなのだから。それまでの経緯けいいを、なぜ記憶もないのに玉手箱の中に日記帳があったのかを、探し求める権利が、わたしにはあるのだ。


 それがまた、

 今この風景の中にいるリンダさんの願いなのだ。


 その依頼に対して料金を頂戴ちょうだいしたら稼業、……まあビジネスとして成立するが、そんな気は毛頭ない。『願い』と『報酬』は別のものだと、わたしは理解する。


 ここでは無償の愛。

 小さい頃に憧れた『正義の味方の理念』が、まかり通っても良いと思う。


 ……つまりこの物語の世界は、親から子へと、


『これからの子に未来をたくす』ようにと、願いを込めるそんな世界なのだ。



 ――右の条々(webなら上)を踏まえつつ、一旦停止をめ、再生へと。

 それにしても眼鏡の奥から刃のような視線。


 同じ丸い眼鏡でも、日記帳に描かれている『妙子たえこちゃん』とは大違いだ。本人の前だから声にできないけど、普段はおっとりしたようなおもむきなのに、全然違う。まるで『氷の悪魔』のように化けている。ギャップが大きいのか、ガチガチと恐怖を覚えるくらいだ。



『ああっ、このままでは、

 リンダさんが、とても怖い人になってしまうよお』



 そう胸中で叫びながらも、空気の変化もなく普通にお話は続くのだ。

 まずはリンダさんからだ。


「何と言いますか、その、あくまでわたしの中の問題なのですが、瑞希先生のイメージが変わったといいますか……あっ、でも、勝手にそう思っていただけかもしれませんし」


 さっきまでの鋭い視線とは裏腹に、

 いつものような口調だ。まあ、せっかくだから訊いてみる。


「あの、リンダさん、差し支えなければでいいのですが、わたしに如何様いかようなイメージをお持ちだったのでしょうか?」

 という具合に……勇気の出力を試みた割には、我ながら、か弱い口調。



 ええっと、それから、

 テンパった!


「瑞希先生それ、似合わないよ」

 と、自身でもそう思っているだけに、きつい一言だ。


 それでもあくまで無邪気な口調。それが海里かいりさんだ。



 ――今ここに三人いる。わたしは二十六歳になって海里さんも十五歳。高等部一年生になった。そんな感じで同じ二〇一六年でも、弥生から皐月へ移り変わったが、前作とほとんど同じシチュエーションだ。もちろんお腹の子は、順調に育っている。


 と、いうわけで、わたしは産休に入っている。


 ここは公営住宅の四棟、三〇三号室。とうとう日記帳の瑞希ちゃんと、同じお家になってしまった。そしてここは、わたしのお部屋だ。このように時間軸が変動しても、ぬいぐるみのパンダさんは、何も変わらずパパのように、わたしを見守ってきた。



 そんな中、出会いはロングだったけど、

 すっかりミディアムボブに定着した海里さんを見て、


「多分、この子の言った通りだと思います。やんちゃと言いますか、瑞希先生には何かこう力強いイメージがありましたけど、……ごく普通の女の子だったのですね」


 と、リンダさんの言う通り腕力は強い・・・・・・けど、普通の女の子にしては臆病なのかな? 繊細でナイーブ―で……いやいやいや、充分すぎるほど変わっていると思う。


「がっかりしました?」

 と、我ながら思わぬ台詞。ピッタリ過ぎるタイミングで溜息ためいきが出た。


 その時だ。

 パッと明るく、


「ううん、そんな瑞希先生で安心したよ」

 と、海里さんは言った。


「子供は素直ですね。……瑞希先生のことを、よく見ていると思いますよ」


 シンクロ、心重なった。

 リンダさんは、海里さんの言葉を待っていたようだ。


 おっとり系の優しそうな趣の人。それがいつもの姿。

 ――でも、本当は恐ろしい人だと思う。幾つも引き出しがありそうで、何処までわたしのことを見て知っているのだろう? ……全くもって、想像不可だ。


 本当に、読めない人だ。




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