第四話 よっしゃあ! ぬいぐるみのパンダさんの登場だ。
それらを、
それとね、
わたしの体内から出た水分と、……その二種類だ。
そして今、
濡れているものは、それだけではないけど、
わたしは浴室でガシガシと、小さな緑色のポリバツを用いて、二足の上履きを洗っている。……靴下も、彼女のものを含む。洗濯機の中。真っ先に脱いで入れたのは、お気に入りの熊さんのパンツ。あと野球のユニホームみたいな大きなTシャツも同様で、わたしのものは、それで全部……だけど、全部なだけに、全裸になっちゃうの。
――とはいっても、
『まあ、一緒だけどね』との胸中の
それに従い、結果的には着ているもの全部を、洗濯機の中へ入れた。でも回すには、まだ彼女が着ているもの
バスタオルは、予め彼女に渡していた。
風邪ひかぬようにと、その思いで……。
洗い終えて、玄関を飾るようにと、二足の上履き立てかける。少しでも、速やかに乾くようにと、穏やかな秋の風が当たってくる。……でも、オゾン層破壊が
少しだけガラス戸が開いている。その先にはベランダがある。
そこから風が流れる。その風こそが、先刻までの空気や色彩までも変えていた。
……そうだとしたら、気づかぬうちに、
そして、薄暗く
何よりも、
わたしの部屋には、佐藤さんがいる。
濡れた髪の上から、バスタオルを
それはね、
もちろん、わたしも大好き!
ズラッと並ぶ黄色十八冊の学問研究の辞書。その本棚の上に座っている。
「ねえ、
ササッと目を
佐藤さんを夢中にさせていたものとは、『パンダさん』と呼ぶに
そこで思い出すのは、やっぱり……。
「七歳の時にね、パパが買ってくれたの」
「優しい『お父さん』だったのね」
「うん……」
『さっきは、合わしてくれたんだ。
佐藤さんは、お家ではパパのことを、お父さんって呼んでいたんだ』
その思いも過るのだが、
また泣きそう。パパのこと思い出すと、いつもこうなの。
泣いちゃ駄目……って、必死に堪える。
するとね、クスッ。またクスッ……で、
佐藤さんは別の意味で堪えていたけど、
もう無理みたい。
「瑞希さん、髪泡だらけよ。鼻の頭にもついてるし。それに……」
言葉が詰まったようだ。
目を逸らしていたけど凝視……いや、目がテンだ。おまけに両手を口元に持ってきて顔を赤くしながら、声のボリューム調整をもままならないみたいで、
「それに、ずっと裸のままだったの?」
と、これがこの子の本当のボリューム。しっかりした声だ。そうでありながらも笑いと驚き。思えば変な組み合わせで、佐藤さんは戸惑っている様子だ。
それでも、わたしは、
「うん!」と、胸を張る。更に「瑞希がね、佐藤さんを
――初めて知った佐藤さんの笑顔。
やっと笑ったけど、……「えっ?」という表情になってしまった。
「……と、いうことは、あたし、瑞希さんと一緒にシャワーするの?」
「そうだよ」
わたしには普通のことだ。
今でもね、お兄ちゃんと洗いっこしているの。
「あの……やっぱり恥ずかしい……」
また小さな声……に戻っちゃうよ。佐藤さんは
そんなの駄目!
その思いが声になって、
「見て!」
と、それも大きく、佐藤さんが再び顔を上げるのには、充分すぎるほどだ。
「ねっ、瑞希が裸なら、恥ずかしくないでしょ?」
「くすくす……」
と、佐藤さんはまた、くどいようだけど再び、笑ってくれた。
……だから、今かな?
今この時に、言うべきかな?
「あ、あの……」
「なあに?」と、もはや普通の会話だ。
何が起きても、もう感激しかイメージできない状況だ。
「佐藤さんの下の名前、何だったかな?」
「ちょっと待って」で、ギクッとなった。
そして佐藤さんの声、少し怖い感じに聞こえたようにも思える。
「ねえ瑞希さん、その前に、あたしのフルネーム教えてたっけ?」
「えっ、ええっとね……」
やだ、それ自体が思い出せないよ。教えてもらっていたような気がするし、まだ教えてもらっていないような気もするし……「ねえ、どっち?」と、追い打ちをかけてくるし。
それで、ちょっと泣きそうになって、
「……
「えっ?」と、わたしの涙が引っ込むのを見計らい、
「これからもよろしくね、瑞希ちゃん」
と、満面な笑顔になって、佐藤さんはそう言った。
「うん!」
わたしも、すっかり笑顔。
手を
爽やかな風。
ここから佐藤さんのことを『妙子ちゃん』と呼ぶ。
……でもね、『タエちゃん』になるかもしれない。
でも、やっぱり初めは、
「妙子ちゃん、脱いだ服は洗濯機に入れてね。瑞希のと一緒に洗濯してあげるから」
「うん、ありがとっ。でも……」
と、妙子ちゃんの表情が曇り始める。
「どうしたの?」
「あの……お風呂から上がったら、着るものないよ……」
「大丈夫。瑞希のお洋服を貸してあげるから」
――あれ? と、キョロキョロ。
「あ~ん、着替え出すのを忘れてた!」
との発言直後、クスクスッとの音声付きで、妙子ちゃんが笑った。
「ごめんね、ちょっと用意してくるね」
という具合に慌てながらも、ニッコリ笑顔に努めて、わたしは全裸のまま駆けた。
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