誰もいなくなるまであと3分

ハチの酢

本編

 ああっ光だ!

 とうとうこの街にも日の光を浴びる時がやってきたのか!

 生まれて初めて日の光を浴びる事が出来た。これ以上の喜びはない。

 日の光を浴びたということは自分の最後の時間が近づいたということだ。

 これから地獄とも言える時間が始まるらしいのだ。人伝てで聞いたのだが、これから灼熱の雨に身を打たれなければいけないのだ。

砂嵐が街に巻き起こる。

 私はぐっと覚悟して、それを待っていると空からすごい速度で誰かが降ってくる。


 ドンッと音を立てて地面に転がるそいつ。むくっと立ち上がり、地面を蹴る。


「イッテテ。もっと丁重に扱えや!」

「こ……こんにちは」

「あぁ?誰だてめえ」


 ガンを飛ばしてくるそいつに僕はビクビクと震える。挨拶だけはしておかなきゃ。


「よ、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 あれ、意外と良い人そうで安心安心。安堵の表情を浮かべていると、彼が話しかけてくる。


「おまえは、イケメンだな。腹が立つ」

「そんなに怒られても困るんですけど」


 急に話しかけてきたかと思ったらなんだよ。

 褒めてくれてるのか、ほんとにイライラしてるのかわからない。


「今人気の塩顔ってやつか。ケッ」

「……あはは……ありがとうございます」

「褒めてねえよ!」

「ヒイッ」


 情緒不安定かよ!怖すぎるだろ!どうすりゃ良いのかわからねえ!


「タッパもあるし、なんだお前!おれと正反対じゃねーか!」

「はい!すいません!」

「羨ましいじゃねーかこの!」


 いや、褒めてくれてるのか。怒ってないんじゃないか。


「えっと……ありがとうございます」

「うるせえ!」

「ヒイッ!」


 もうやだこの人怖いよお!フレンドリーじゃないよこの人!

 すると、さっきのいかつい態度が嘘かのように急にトーンの下がった声で彼は言う。


「おい、おまえは不安じゃないのか」


 彼の顔が全てを物語っている。

 彼の意味するところはわかる。確かに不安でないといえば嘘になる。みんながこの街の運命を知っているから。しかし、僕らに与えられた役目は全うしなければならない。


「不安……ですけど、自分がこの役目を全うできる喜びの方が大きいです」


 僕の言葉に彼はふっと笑う。


「そうか。おれよりも肝が座ってる男だ。おまえと最後に出会えて良かったよ」


 彼がそう言うと空から熱い大雨が降ってくる。彼が感じた気持ちに呼応したのだろうか。熱い雨がずっと降り続けた。とうとうこの街も終わりかもしれない。彼らが言っていた灼熱の地獄とはこのことだろうか。

 僕らの体が沈むほどにまでこの雨は降り続けた。僕らは話し続ける。


「あと少しでおれらの人生も終わるな」

「そうですね」


 しみじみとした空間に僕らは漂う。

 空が暗闇に包まれると、僕らはもう残された時間がないことを悟った。


「面白い話でもしましょう。最後は笑って終わりたいです」

「そうだな」


 それから二人は笑い合いながら昔の話を語り合った。自分たちの人生に悔いを残さないように。

 空が明るみ始める。話のネタもそろそろ尽きてきた。街の真ん中には大きな渦が出来ていた。


「そろそろだな」

「そう……ですね」


 周りのみんなはもう旅立ってしまった。この街に残るのはあと少しだ。渦から巻き起こった波が僕らに押し寄せる。

 彼がすくっと立ちあがる。


「おれは先に行くよ。じゃあな」

「はい、お元気で」


 彼もまた旅立っていった。

 そろそろ自分もかと思い、立ち上がるとお迎えが来たようだ。

 僕も残った人たちと共に旅立つ。

 さようなら僕の街。





























 ズズズッ


「いやあ、カップラーメンうまいわ」










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誰もいなくなるまであと3分 ハチの酢 @kasumiito

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