あなたの三分間を売ってください

余記

人類最後の三分間

奇妙な女の子の噂があった。

いわゆる、都市伝説の類なので細かい部分は違ったりするのだが、だいたいこんな感じの噂だ。




手かざし、と呼ばれる人々がいる。


道を歩いていると突然呼び止められて、

「すいません。あなたの幸せを祈らせて下さい。」

と話しかけてくるような人々の事だ。

承諾すると、数分の間、頭に手をかざしてなんだか祈るなどするようだが、いくつかのバリエーションがあるらしい。


だがまぁ、今は噂の少女の話だ。


彼女も、手かざしのような事をするらしい。

だが、話しかける言葉が違う。


「あなたの三分間を売ってくれませんか?

あなたが思う、最高の三分間でも、最悪の三分間でもいいので。」


三分間を売る?


奇妙なお願いにまごついていると、その少女は手を上に伸ばしてかざすようなポーズをとっている。

「あぁ。手かざしの人なのかな?」

と、納得して、暇のある人なぞは、そんな害も無かろうと付き合ってじっとしている。

と、三分ほどしてから

「ありがとうございました。」

と、挨拶をして行ってしまうのだ。



そして、売った人たちは、人生の中の三分間を失う。



どんな「三分間」を失ったか?は、人によってそれぞれ違うらしい。


事故の瞬間を失って怪我していたはずの足が動くようになった人とか、

宝くじが当たった瞬間を失って豪華な暮らしをしていたと思っていたのに貧乏暮らしになっていた人とか。

一緒に乗ってた人はどうなったの?とか、当たった分のお金はどこ行ったの?とか疑問はあるがまぁ、そこが都市伝説という所なのだろう。

そして、結果が良かった人と不幸な人の違いは、手かざしをされているうちに思い出した出来事―――

つまりは、今までで一番印象的な出来事が、良い事だったのか悪い事だったのか、という事だ。



***



会社帰りに出会ったその老人は、新聞紙を丸めたようにしわくちゃな外套コートを着込み、外からうかがえる肌や顔も、外套に劣らずしわだらけだった。


ごほごほと咳き込む姿を見て心配になったので

「大丈夫ですか?」

と声をかけると、

「いや、大丈夫じゃよ。」

と、思ったより力強い声で返答が来る。

その老人も丁度、駅に向かう所だったみたいなので、なんの気なしに世間話などをしながら歩いていった。



と、そこに少女が現れたのだ。

「あなたの三分間を売ってくれませんか?

あなたが思う、最高の三分間でも、最悪の三分間でもいいので。」


噂の通りだ。



私は、特に売ってしまいたいような思い出も無かったので、

「いえ、私は別に、売ってしまいたいような記憶とかありませんので。」

と、話す。


すると、老人が興味を持ったみたいで、その話に乗ったのだ。

「そうですか。私なぞ、この年まで生きると色々と後悔する事がありましてね・・・」

そう言うと、老人はひとつ、会釈をして少女の方に近づいた。



そうして、老人は、少女の質問に答えつつ、話に聞いていた手かざしのような儀式をうけるのだった。

その姿を見て、あの老人も噂に出てくる人のように元気になるといいな、と思った。




そういえばさっき、あの老人が奇妙な事を話してたけど、なんだったっけ?

今までで一番後悔した事とかいう話。


あぁ、そうだ。


確かこんな事言ってたんだ。




「人間を自分に似せて作ったのが、今までで一番後悔した事でした。」

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