初めての出会いは最後の3分間
もえすとろ
2020/3/20 (金)16時57分
場所は屋上
時刻は16:57
俺に残された時間はそんなにない
?「えっと、何のようかしら?」
小首を傾げて俺を見る瞳は試すような色が窺える
俺「偽らずに答えてほしい」
?「プライベートな質問には答えられないわ」
冗談ぽくいう彼女は不敵に微笑む
緊張で手が汗に濡れる
でも、意を決して聞かねばならない
この世界の事、そしてこの先の未来の事を
俺「あなたは、何を知ってるんですか」
?「何を?それはどういう意味かしら?」
俺「この世界が、繰り返されている事です」
?「…………?」
まるで分からないわ、そう言いたげな顔
俺「とぼけても無駄です」
?「そう。でも、本当に何の事か分からないわ。ごめんなさい」
屋上から出ていこうとする彼女
咄嗟に彼女の手を掴む
俺「待ってくれ!俺は知りたいんだ!この先の未来は、どうなってしまったんだ」
?「痛いわ、離して」
そこで思いの外強く彼女の手を掴んでいた事に気がついた
俺「ご、ごめん」
手首を摩りこちらを窺う彼女の眼は酷く冷たい
?「はぁ、未来ね……そんなモノは無いわ」
無い?未来が無い、だと⁉
俺「そんなっ」
?「事実よ。そもそも現状、どうして時間が繰り返してるのか私は分からない」
俺「そんな……」
?「でも、一つ仮定に仮定を重ねた妄想とも言える憶測はあるわ」
俺「それは?」
?「世界の意思、よ」
俺「世界の意思?仮にそんなモノがあったとして何でこんな事をするんだ?」
?「世界にとって良くない出来事が発生した」
俺「人類の危機とかか?」
?「いえ、それなら世界が英雄を仕立てて解決できる」
俺「そうか……そうか?」
?「現に、今此処にアナタが現れたわ」
俺「俺?」
?「そう、
俺「ヒーロー?俺は一般人だ。今までそんな事」
?「ある日、ちょっとした偶然から特別な力を手に入れて、その力で世界を救う」
俺「俺に特別な力なんてない」
?「いいえ、今此処で私と会話してるアナタは間違いなく英雄よ。そして、手に入れた力はループからの脱却」
俺「俺が、ヒーロー……」
?「そして、私はアナタのヒロイン」
俺「は?ヒロイン?」
?「そ、英雄に想いを寄せる健気な一般人の女の子」
神に祈るように手を合わせ優しく俺を見つめる彼女は、夕日に照らされていて
美しかった
俺「けな、げ……?」
?「何かしら?」
一気に温度の失われる瞳
俺「いや!何でもない!」
こ、怖い……この子が俺のヒロインなの?ホントに?
?「なら良いの」
まるで満開のヒマワリのような凄くいい笑顔だ
俺「あ、そうだ!名前!名前教えてよ!」
?「いやよ」
俺「え?」
何でーーーー⁉
?「気安く呼ばれたくないの。それよりもう時間が無いわ」
俺「……時間が、ない?」
?「そう。だからお話しの続きは次のループでしましょ」
俺「でも、俺……記憶が」
記憶を完全に持ってループに入れるわけじゃない
俺の記憶は殆ど残らない、今回気づけたのは偶然だった
今回のループでは、デジャヴのような感覚をずっと感じていた
何回目なのか分からない、でも俺に蓄積された記憶の残滓が俺に真実を教えてくれた
?「そう、まだ完全ではないのね」
俺「完全に力が使えれば記憶を失わない?」
?「ええ、私のようにね」
俺「どうやったらいい?教えてくれ!」
?「なら目を閉じてジッとしていて」
俺「わかった」
?「絶対に、絶対に目を開けちゃダメだからね?」
俺「わかった!わかったから早くしてくれ。時間無いんだろ?」
?「もうっ……ちょっと屈んで……そう、そのまま」
ちゅっ
えっ?
い、今の感触って⁉
唇に柔らかい何かがそっと触れる、優しい感触……
思わず目を開ける
すると恥ずかしそうに目をギュッとつぶった彼女の顔があった
き、ききききききききき、キッス⁉
え?何で⁉何でキスされてるの⁉
彼女が目を開けて……俺と目が合う
?「………………//////」
パチパチと数回のまばたき
数秒後
あっ!!と驚き目を限界まで開く彼女
俺「………………」
キスしたまま彼女と俺は見つめ合う
そして、ループの時間がやってきた
グラッと立ち眩みのような感覚が俺を襲う
薄れる意識の中、彼女の声が微かに聞こえる
?「おく うに、 て! たしに、あい き ‼‼」
最後に見えたのは涙を流す彼女と鮮やかな夕日
そして、腕時計が指し示す時間
17:00
俺「はっ⁉……あれ?夢……?」
唇に指を触れる
何か、忘れてる気がする
やっと手に入れた大事な何か、それが抜け落ちたような消失感
すーーーーーーーーー、はーーーーーーーーーーーー
落ち着け、今回こそ……今回こそ??
なんだ?今回こそって……
やっぱりなんか忘れて……
モヤモヤするまま、登校し教室につく
授業を受けてる間も何故か夢の事が気になってしかたない
昼休み、教室で弁当を食べ友達と他愛無い話をする
しかし、モヤモヤは一向に晴れない
放課後、俺は気分転換に屋上に向かった
特に理由は無い
ただいい景色と風に当たるのにちょうど良い、そう思っただけだ
俺が階段を上がり屋上への扉を開けると
先客が一人いた
先客の女子は誰かを待ってるみたいで、扉の方を見ていたんだろう
俺と目が合って慌てて視線を逸らす
俺は気にせず屋上のフェンス際まで向かう
?「ねぇ、待たせすぎじゃないかしら?」
さっきの女子が誰かに声をかけた
きっと待ち人が来たんだろう
季節的には春だが、まだ少し肌寒い時期だ
そんな所に女子を待たせるなんて、気の利かないやつもいたもんだな
?「ねぇってば!なんでコッチ向いてくれないの!」
どうやら痴話喧嘩が始まったようだ
?「無視すんじゃないわよ!」
男の方は何してんだ?
まったく……気分転換しに来たってのに
不快な気分にさせられるとは
もう、帰るか
?「いい加減に、しなさーーーい!!」
振り返ると、そこには先ほどの女子がいた
しかし、言い争いしてる男子の姿が見えない
電話でもしてるのか?
でも、何故か彼女は俺の方を睨んでいる
ささっと横にズレる
しかし、彼女の視線は俺に固定されていて追尾してくる
え?俺?
俺「えっと……?」
?「はぁ、やっとコッチ向いたわね。遅いわよっ、もう!」
俺「ん?オレ?」
?「え……もしかして記憶、ないの……?」
記憶ない?
いや、俺は別に記憶喪失になった覚えはない
なら、この子の勘違いか?
でも、勘違いしてるような雰囲気じゃないよな
?「……なんで……忘れちゃったの?」
忘れた?俺が?何を?
あ、忘れると言えば……夢の中に女の子が出てきたな
その子から確かキス、されたんだよ。そうそう!
段々思い出してきた
それで、その子が俺の事をヒーローって
?「私のヒーロー……いなく、なっちゃった……ぐす……」
半泣きの女子はよく見ると夢の中の子に似てる気がする
でも、髪の長さが違うなぁ
ちなみに俺ロング派なんだけど、目の前の女子は髪が短い
今にも大泣きしそうな女子の対応なんて分かるわけもない俺は一先ず
俺「えっと、泣き止んで」
?「だって、私の…私のヒーローが……」
俺「君のヒーロー?それはどんな人?」
スッと俺を指さす
俺「えっと……俺?みたいな人ってこと?」
女子は首を振って否定する
俺「…………もしかして、俺?」
コクコクと頷く
俺「いや、俺は君のヒーローじゃないと思うよ?俺たち初対面だよね?」
フルフルと首を振る
俺とこの子はどこかで合った事がある?
いや、俺の記憶にはこの子はいない……いないよな?
でも……なんか気になる
俺「俺と君はどこかで合っていて、それを俺が忘れちゃってるって事?」
コクコクと頷く女子
俺「えっと、何処で合ったかな?」
?「…………みらい?」
俺「みらい?って未来?でも何で疑問系?」
?「私にとっては……過去でもある」
俺「未来でもあって過去でもある?ちょっとよく分からないな」
?「……ほんとなのに」
俺「……とりあえず、説明してくれるかな?」
?「わかった」
俺「よかった」
?「私たちは一定の期間をループしてるわ。それに前回の君は気がついた。そして私にコンタクトをとったわ」
俺「ループしてる?」
?「そう。何度も何度も同じ時を繰り返してるわ」
俺「俄かに信じられないな」
?「でしょうね。でも事実なの。ホントに何も覚えてないの?3月20日の16時57分から17時までの出来事を」
俺「3月20日?その3分間で何かがあった……?ん~~……なんか夢?で見たような」
?「夢?それってどんな夢!?」
俺「えーっと、夕方の屋上で……君と似た女の子と……」
?「キスした?」
俺「なんで、知ってるの!?」
その瞬間、彼女の雰囲気が変わった
力無い少女みたいだった雰囲気が、一変し何モノにも動じない落ち着いた雰囲気に
?「それは夢じゃないわ。前回のループの最後の瞬間なの。思い出して、アナタが気付いた真実を」
最後の瞬間……?真実?
?「なら、思い出させてあげる。目を瞑って、ほらっ」
混乱する頭は言われるがままに目を瞑る
ちゅっ
何を⁉
……あれ?なんだ?この記憶は……?
まだ先の授業の内容、来月の天気予報、まだ起きてない事故のニュース……
俺は知っている?
俺は既にそれらを見ている?
これが前回のループの、記憶なのか?
?「思い出した?」
俺「あ、ああ。なんかこの先起きる事を幾つも知っている、気がする」
?「そう、それは実際にこの先起きる出来事よ。やっと目覚めたね、私のヒーロー!」
俺「でも……この記憶で、どうすれば」
?「私たち二人で、世界を…未来を救うの!世界の理を曲げる原因を突き止めて、修正する。そうすれば時間は正しく進むようになる」
俺「世界を救う……わかった。俺やるよ」
?「ええ。これからよろしくね」
俺「ああ!それで、まずは君の名前、聞いていいかな?」
?「私の名前は」
これは世界を正し未来を取り戻す英雄になった男の物語り
初めての出会いは最後の3分間 もえすとろ @moestro
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