ウルチョラの星々よ永遠に……

水木レナ

ウルチョラの星

 ここは惑星ウルチョラ。


 遥か昔に存亡の危機にあった地球という星から、ウルチョラマンが移住を勧めてくれた、銀河の星。


 太陽もある。星座もある。空気も水もあれば動植物もいる。


 けど、そんなふうにこの星をつくりかえたのは、ボクたちの祖先だ。





「師匠――! また課題が出た!! 三分間以上、ウルチョラパワーを維持するパワードスーツの課題が!!!」


 うらうらと日当たりのよい庭先でボクは師匠を呼んだ。


 遊んであそんで! と彼の足にまつわりついた過去。そして彼を師匠と仰ぐ現在のボクは、十一歳。


「師匠――!?」


 いない。また開発部のタントーさんとどこかへ出かけたのだろうか。


 白衣のおじちゃんたちに囲まれて、大学の建物に入っていく師匠の背中を思い浮かべた。


「まったく、師匠ったら」


 そう言いながらボクは縁側にあがりこむ。


 師匠はこのごろ、ちっとも変身しない。


 街で怪獣が暴れてもしらんぷりだ。


『人々は、いったん母星の外へ出たのだから、何事も自分たちで対処できるようにならなくては』


 そう言っていた。


「そんなの師匠の怠慢だと思うんだよな……」


 ボクは不満をおぼえながら、師匠の部屋に入る。


 そこにはウルチョラのパワーグッズがいくつも置いてある。


 ちいちゃな弓と毒矢の組み合わせが最近、超好きだ。


 猛毒のタラチュラーを矢じりにたっぷり塗ってと。


 弓は手入れを怠らない。


 これでいつでも出動できる。そのときになったら、師匠はボクに感謝するはずさ!





 ビームッ! ビームッ!


 赤いライトがビカビカ光る。


 これなに? 師匠。


 廊下にでようとして、塞がれる。


『ガハハハハ! ウルチョラの星か、ウルチョラマンのいない惑星など、滅ぼしてくれる――』


 そんな声がボクには聞こえた。


 ボクはタラチュラーの入ったカプセルと弓矢を抱いて、机の下にうずくまった。


『どこだどこだ、ウルチョラマンの秘密の部屋は――』


 こちらへ来る!


 ボクはタラチュラーをまいて、宇宙怪獣(!?)を退けようとした。


 ボボウッ!


 火の手が上がって、部屋中火事だ。


 おかげで怪獣は、こちらへは入ってこなかったけれど……。


 タラチュラーにこんな作用があるんなら、教えといて欲しかった。


「し、しょ……たすけて」


 熱い。焼ける。気を失いそうだ。





「ぼんやり少年――!!」


 どこからか師匠の声がした、気がした――。


 ボカァン!


 という音がしたと思うと、外の冷たい空気が入ってきた。


 火の手がいっそう大きくなったけど、ボクはあったかい師匠の腕の中にいた。


「たすけにきたぞ!」


「う、ウルチョラマン――」


 ボクは感涙して、ウルチョラマンにしがみついた。


「少年、キミたちは今から、この星を出なくてはならない。宇宙怪獣が、いつのまにか地下に巣をつくっていたんだ」


「――――!?」


 おどろくボクを抱えて、ウルチョラマンは空を飛ぶ。


 本当は下を見るのも恐ろしいけれど……。


「あ! 大学のおじちゃんたち!」


「キミは今から、彼らと合流して、宇宙船で飛び立つんだ――」


「ウルチョラマンはっ?」


「私は……この星を出たら三分間しか変身できない。そのまえに、なんとしても残った人々を救わなければ!」


 行ってしまった。


 ボクは大学のおじちゃ……おにいちゃんたちと一緒に宇宙船に乗りこんだ。


「ウルチョラマンはまだなのか?」


「もう、間に合わない――」


 絶望の声があがる。


 ボクは不安に駆られながらも、宇宙船からウルチョラの星を見下ろしていた――。


「待って! 待ってよ。ウルチョラマンは三分あれば、宇宙でも息ができるんだ。だから、もうちょっと待ってよ」


「ああ。だが、宇宙怪獣は惑星ごと爆破するしか、退治する方法はない」


 それしか、ないのだ――。そう言って、おにいちゃんは出航のスイッチを……。


「あのウルチョラマンを見捨てるなんて、できない!」


「そうだ。かつてボクらの地球は滅んだ」


「われわれが今ここで生きているのは、全部ウルチョラマンのおかげなんだ。だから、死ぬんだったらウルチョラマンと一緒だ――」


「ああ!」


 キラキラとした涙を流す、おにいちゃんたち。


 だけどボクはあきらめなかった。


「ボクをデッキにおろして――」


 そこは宇宙空間。大人用のパワードスーツを無理に着て、ボクはタラチュラーの弓矢をかざす。矢じりから炎があがる。


「待っててね、ウルチョラマン――」


「どうするんだ少年!?」


「こうするんだっ!」





 宇宙怪獣はウルチョラパワーでやっつける!


 ウルチョラマンは言っていた。


『宇宙怪獣は地下のマグマを食べて生きている。惑星が生きている限り、やつらは死なないんだ』


「それが――爆発しちゃえばどうかな!?」


 ボクは火の矢を放った。


 青い手がそれをつかむ。


「受け取ったぞ! ぼんやり少年!」


 ウルチョラパワーの矢を使い、ウルチョラマンは宇宙怪獣をやっつけた。


 具体的に言えば――炎の矢を地下のマグマに突き刺したんだ。


 爆破と共に、ウルチョラの星は砕け散った。


 ボクらは宇宙の彼方に飛び出して、間一髪で助かったけど――ウルチョラマンは助からなかった。


 さようなら、ウルチョラの星。さようなら、ボクらのウルチョラマン――。





 なんてことになるわけないだろっ!!





「あと、三分――二分、一分!」


 宇宙空間は極寒だ。なにもかもが凍りつく。


 ボクはデッキに出て、タラチュラーをまいて、宇宙船全体を炎で包んだ。


 バリアみたいに。


「三十秒!」


 手が――とどく。あのウルチョラマンが、ボクの手のとどくところにいた――。


 ボクはパワードスーツの出力を最大限にあげ、彼の手をひきよせる。


 バリアがかけ橋となってボクらを結びつけたんだ。


「おかえりなさい、ウルチョラマン」


「……ああ! ただいま――ぼんやり少年」


 ボクらは小さな存在だ。住まう場所もまた見つけなくちゃいけない。


 だけど、だいじょうぶだ――ウルチョラマンがいるから。





 おしまい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウルチョラの星々よ永遠に…… 水木レナ @rena-rena

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説