今から3分の後に、私は死ぬ。
永人れいこ
今から3分の後に、私は死ぬ。
今から3分の後に、私は死ぬ。
もちろん、今の私はその情報は知らない。けれど、実際にこの死ぬ前の3分間は何万回を繰り返した。
「本橋さん、大丈夫ですか?」
私の隣に座っている男性が私の顔を心配そうに覗き込んだ。
「あ、やっ、大丈夫だよ。何を話していた?」
前には泣いていたか頬がちょっと濡れていた。速く手で目から涙を拭いた。
彼が私の質問に自分の席に深く座り込んでため息を吐いた。なぜかよくわからないけど、私のせいだと思ったから頭の中にこっそりと彼に謝った。
「ご一緒に住める家族なんかいますか?」
「ごめん、家族なんて子供の頃亡くなって1人になってしまった」
「なるほど、本橋さんの状態によると1人に生活できるのが難しくなるので家族がいればよかったのに」
彼は残念そうに近くの机の上に置いていたファイルを拾って真剣に読んだ。
私は今に座っている部屋を見回った。医者の事務所のようだ。いつからここに来たでしょうか。
「彼氏とかいますか」
「いない」
どうしてこの変な質問が聞いているでしょうか。わけがわからない。
急に何か思いついた。自分の身体を見下ろしたけど、ケガとか見つからない。頭の上も手でこっそりと触ってみた。何もない。ケガが全く見つからない。
「ごめんなさい、私の状態ってどういうこと?」
「橋本さんは長い間に1人で何もできない状態です。信じられないかも知らないけど、運転も料理もシャワーでも簡単に一人でできるはずなことが無理になった可能性が高いと思います」
この人じゃなく、服装を見ると明らかに医者さんは一体何を言っているでしょうか。
「私全然平気だよ。どうして何もできなくなったと思う?」
この質問に彼はまたため息を吐いた。
「この事務所にいる前に最後の覚えはなんですか?」
ちょっと考えた。最後の覚えは――
「――えっとね、確かに今朝仕事に向かって運転していた。それで、橋を渡そうところで、急に大きいな音が聞こえていつの間にか車が道路のガードレールを跳ねた。その後――。ない。その後はここにいる」
「本橋さん、それは3ヶ月前だ」
「違うよ。それはきっと今朝だった。ちゃんと覚えている」
彼の言葉が信じられない。どういう風に何も覚えずに3ヶ月が経てるでしょうか。昏睡状態なら――
「最初の2ヶ月が昏睡状態でした」
彼は私の心が読めるように言い出した。
「嘘」
「申し訳ございませんが、嘘ではありません」
私は指先で自分の額を押した。彼の言葉はどうしても信じられない。冗談でしょうか。
「じゃ、その後の1ヵ月は?」
彼が可愛そうな目で私を見つめた。
「本橋さん、あの交通事故ですごく珍しい症状が出ました。前向性健忘症という症状です」
「前向性健忘症って?」
目の端から涙が浮かんできた。
「事故で頭が何かとぶつかってもう新しい記憶が作られない症状です」
「じゃ、どうして会話できる?」
「3分の間に普通に何もないように続けるけど、3分が経ったら橋本さんの記憶がリセットして事故の後からあの瞬間まで何も覚えられない。記憶がいつリセットするかは場合によって違いますが橋本さんの件には激短くたった3分しかないです」
「嘘!」
涙がもう溢れて泣き出しながら叫んだ。
「嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘!」
私が手で耳を塞いで顔を伏せた。何も聞きたくない。何も見たくない。
そして――
今から3分の後、私は死ぬ。
もちろん、今の私はその情報は知らない。けれど、実際にこの死ぬ前の3分間は何万回を繰り返した。
「本橋さん、大丈夫ですか?」
私の隣に座っている男性が私の顔を心配そうに覗き込んだ。
「あ、やっ、大丈夫だよ。何を話していた?」
今から3分の後に、私は死ぬ。 永人れいこ @nagahitokun
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