瞬きストーリー(最後の三分)
つばきとよたろう
第1話
残り三分、氏名を忘れていないか確認しなさいと、あの先生は、毎度同じ事を言っている。
残り三分で、裏にも問題があることに気付く。
ボクシングのゴングと共に、セコンドが残り三分と思わず言ってしまう。
弟は最後の三分を告げられると、腹痛を訴える。
一日の最後の三分間は、寝ている。
明日も変わらない。
たとえ素晴らしい夢を見ていても、覚えていない。
壁ドンに、最後の三分間を邪魔される。
映画のラスト三分間は、ヒロインのおっぱいのことばかり考えている。主人公の濃厚なラブシーンに耐えられないからだ。
驚愕のラストという売り込みの、映画のラスト三分は、長いエンドロールが流れている。
エンディング曲が終わっても、エンドロールは終わらず、別の曲が何事も無かったように始まる。
スプラッター映画の最後の三分間は、お肉の解体ショーが始まる。
ラスト三分間で、いつも焦げてしまう。
いつも最後の三分間くらいの気持ちで、歯を磨く。
明日までの命と分かっていても、何もしない。最後の三分間くらい後悔するかもしれない。もう遅いと笑われながら。
最後の三分間を測ってやろうと、砂時計を逆さにすると、その砂の流れについつい見取れてしまって、何もせずに砂が落ち終わる。
最後の三分間、壁ドンが百八つ。
校長先生は、家に帰るまでが、遠足ですといつも言う。
その子は、家から一時間掛けて登校してくる。
隣のクラスの生徒の家は、学校の敷地内にある。
最後の三分間は、秒読みしている。
母ちゃんは、残り三分でも五品揃えてくる。食べる時間はない。
その老人は、大食い大会で、最後の三分間もまるで観客のように、参加者を眺めている。
食べ放題の最後の三分間は、帰る支度をしている。
カップラーメンの三分間は、最後の三分間くらい待ち遠しい。
謝るときも、最後の三分間のつもりで謝っている。
恋愛だって、街で見掛けた奇麗な女の人には、最後の三分間の気持ちで見詰めている。
引っ越しで家を後にするとき、最後の三分間、知らない男が見送っている。
母ちゃんは、最後の三分間でも支度をしていない。
ロウソクが短くなると、一緒に家まで燃え尽きるんじゃないか心配になる。
怖い話の最後の三分間で、用意した話が全て終わっていることに気付く。
終わり三分間でも、寝てしまう。
日没の三分間は、最後の太陽のつもりで見詰めている。
食事の最後の三分間は、これが最後の食事のつもりで迎えている。
ホラー映画のラストは、分かっていてもびびる。
最後は、いつも見ない。
甥っ子は、その映画の結末を知らない。ときどき自分の出来事のように話してくる。
年末の三分間は、次々にテレビのチャンネルを変えてしまう。
年が明けても、あまり気にせず変えてしまう。やっぱり映画が一番と悟る。
何度も見た映画でも見てしまう。
余命三分を告げられたとき、トイレに駆け込むべきか、我慢すべきか悩む。
そんな絶妙なタイミングで、余命を告げる医師は居ない。
高校生活最後に、好きだった女の子に告白しようとして、体育館の裏に呼び出してもらったら、いざ彼女を目の前にすると頭が真っ白になった。結局、何も言えなかった。最後の三分間は、いつの間にかその子の好きな男の子の名前を告白されていた。
瞬きストーリー(最後の三分) つばきとよたろう @tubaki10
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