第6話
大きな橋の下の岸辺近くで、船は、鳥たちと一緒に嵐の夜を過ごしました。丁度、鳥たちが身を寄せ合っている真ん中に、船は入り込んでしまったのです。流れは激しく、うねっていましたが、鳥たちのいるその場所は、風から守られていました。渡り鳥たちは本能的に、彼らにとってもっとも安全な場所を選んだのでしょう。
その日、船は渡り鳥たちからいろんな話を聞きました。
――この川の向こうに何があるかって?
――うん。それが知りたいんだ。
――海があるのさ。広い海がね・・・。
渡り鳥たちは、代わる代わる船に教えてくれました。彼らが旅してきた世界。海と、そしてその彼方にある遠くの島々のことを・・・。
――僕も行きたいな・・・。でも、僕には無理だ。ぼくは自分で動くことができないもの・・・。
――そんなことはないさ。
渡り鳥たちの中で、最も立派な翼を持った鳥が言いました。
――あきらめることはない。信じていれば、いつかきっと行くことができるさ。
――どうして、そんなことがわかるの?
――それは、我々も同じだからさ。我々だって、決して自由ではないんだ。
船は驚いて、その鳥を見ました。鳥は、穏やかな調子で続けました。
――お前たち地上から見る者には、我々が自由に空を羽ばたいているように見えるだろうが、実際はそうじゃない。空は気流が渦巻いているから、自由に飛べるわけじゃないんだ。我々は、風の流れに飛ばされているだけなんだよ。
――でも、あなたたちはちゃんと目的のところへ飛んでいくじゃないですか。
――それは、我々が風の扱い方を知っているからさ。いいかい? ほんの少し翼を動かすだけで、風は変化するんだ。その流れにうまく身体を乗せればいいんだよ。練習次第で、気流を操れるようにさえなる。
ただ、それはとても難しいんでね。習得するのには時間がかかる。十分に習得できないまま旅に出て、死んでいった仲間たちも多い。今、残っているのは最初の半分以下なんだよ。
嵐の海上に落ちてゆく白い鳥たちの姿・・・。
――だが、一つだけ確かなことがある。ここにいる者たちは、決してあきらめなかった連中ばかりだということさ。遠い彼方に待つ島々を信じて、楽園を信じて、飛んだものばかりなのさ。
だから、お前もあきらめることはない。お前がほんの少し身体の向きを変えるだけで、流れは、いいようにも、悪いようにも、お前を運んでくれる。お前が望む夢をかなえること・・・そのために努力していれば、流れは、お前の望み通りに動くようにさえなるんだ。
その鳥は言いました。
――お前が信じて望みさえすれば、いつか流れはお前を遠くの世界に運んでくれる。果てしなく広い、遥かな世界へ!
鳥たちと別れた船は、一人、川の中に浮かんでいました。見上げると、空は青く、澄みわたっています。そして、水は、サラサラと音を立てていました。
さわやかな風にのって、潮の香が流れてきます。もうじき、海に着くのだろうと、船は思いました。鳥たちの話してくれた青い海に・・・。
――波の音が聞こえる・・・。
そして・・・?
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