第5話

 ――近ごろ思うんだよ。私は今、本当に自由なのかってね。

 そう言えば、前、一緒だった木の枝も言ってたっけ・・・。

 ――だって、そうだろう? 私たちは結局・・・。

結局、流されているだけなんだ。水の流れに。僕は昔、僕の体を縛りつけている自分の根が嫌だった。同じ景色ばかり見て暮らす、平穏な日々が嫌だった。だからこそ、今、船になって水の上を旅しているのが楽しかったんだ。それなのに、結局僕は水に流されていただけ。自分の意志で行動しているわけじゃない。前と同じだ。ただの、笹の葉だった頃と・・・。


 水音が急に大きくなり、突然の浮遊感。視界が一瞬真っ白になって、次の瞬間には水の中へ・・・。既に何度目かの経験でした。

 でも、以前感じたような幸せな気持ちは、もう味わえませんでした。


 魚たちの群れは、流れに逆らって泳ぐ。

 ――あなたと同じ方向に泳いだら、流されてしまうではありませんか・・・。

 彼らは、流されまいと動く。流れに逆らい、運命に逆らおうとする。

 でも、僕は・・・?


 船は、川の流れに身を任せながら、考えました。

 ――僕には、流れに逆らうことはできない。でも、それなら・・・

 川は、いつの間にか、ずいぶん広くなっていました。流れは緩やかで、水音も穏やかでした。

 ――それなら、この流れの行きつくところは何処だ? 僕はいったい、何処へ向かっているんだろう?

 船は独り、ポツンと川の真ん中に浮いていました。誰も、彼の疑問に答えてはくれません。

 見上げると、空は灰色で、どんよりと曇っています。風が冷たく吹き付けてくるのを感じながら、船はぼんやりと考えました。

 ――嵐が来るのかもしれないな・・・。

 その時、空を何か、白いものが横切るのが見えました。それは真っ直ぐに、船の方めがけて降りてきます。

 それは、白い、渡り鳥の群れでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る