第4話

 船は川の流れに乗って旅しながら、その後も何匹もの魚たちに出会いました。けれども、どの群れにも彼と同じ方向へ泳いでくれる者はいなかったので、あいかわらず一人でした。

「やあ、君! きみは何処から来たんだい?」

 ふいに彼を呼ぶ声が聞こえました。船は、あわてて辺りを見回しました。

 川辺に近い岩の上に、一匹のカエルがいて、船の方を見ていました。

「こんにちは。カエルさん」

 カエルはピョンと跳んで、水の中に飛び込むと、船と並行に泳ぎ出しました。そして、泳ぎながら、

「きみは何処から流れてきたんだい? そこはどんな所だった? きれいな所だったかい?」

 と、船に向かって話しかけるのでした。

「そうですね・・・」

 船は、今はもう遠くなった故郷のことを思い出していました。きれいな所だったろうか? 遠くに見える初夏を迎えたばかりの山々。ふもとには、民家が並ぶ。そんなはるか彼方からずっと、田園風景が続き、一面の緑の中で、人々が農作業をしている。あの風景は、いつも同じだった。いつもいつも、風に吹かれてじっとしたまま、僕は同じ景色を繰り返し見ていた。

「・・・でも、今はもう、あの頃とは違う。僕にはもう、動きを妨げる根はないんだから」

 船は嬉しそうに言いました。

「僕は今、いろんな景色を見れる。自由に動ける。僕は自由なんだ」

 カエルはそれを聞くと、変な顔をしました。

「そりゃ、おかしいよ」

と、一言、言いました。


「君が自由だって・・・?」

 カエルは、船を先端から後端までジロジロ見てから続けました。

「君はただ、水に流されているだけじゃないか」

 カエルは、近くの岩の上にピョンと跳び上がりました。

「君にここまで来れるかい? 来れないだろう?」

 船は、その岩の傍を、流れに乗って、通りすぎていきました。

「君が自由だって・・・?」

 流れが速くなっていました。今はもうカエルも・・・カエルのいた岩も、見えなくなってしまいました。

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