第3話

 ある日、船がのんびりと水面に浮かんでいると、下から彼を突くものがいます。船は不思議に思って、水面下をのぞきました。そこには、小さな魚たちが群れを成しているのでした。

「やあ、こんにちは」

 船は、彼らに挨拶をしました。

 船は枝と別れてから、長い間独りでした。最初は楽しくて仕方がなかった一人旅だったのに、最近は少し淋しくなってきたところだったのです。

「・・・こんにちは」

「・・・こんにちは」

「・・・こんにちは」

「・・・こんにちは」

 魚たちもみな、挨拶を返しました。が、彼らはみな、船が流されるのとは反対の方へ泳いで行ってしまいます。船はしばらく魚たちの様子を見ていましたが、魚たちは結局、一匹も立ち止まってはくれませんでした。船は、仕方なく一人で流れていきました。


 また別の魚の群れが泳いできました。そして、彼らも船とは反対の方に泳いでいこうとします。船は、慌てて尋ねてみました。

「どうして、君達はそっちへ向かって泳ぐの? 僕と同じように流れに身を任せてごらんよ。その方がずっと楽だろう?」

 魚たちはみな、流れに逆らう形で泳いでいたのです。

「どうしてって・・・」

「あなたと同じ方向へ・・・」

「泳いだら・・・」

「流されてしまうでは・・・」

「ありませんか・・・」

 最後の言葉を言ったのは、群れの一番最後の魚でした。

「ああ・・・そうか・・・そうだね」

 船がそう言ったときには、魚の群れはもうずっと遠くの方に離れていました。

 船は仕方なく、また一人で旅をすることにしました。

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