第2話 帰るんだ、故郷へ
「そんで、戻ってきたわけか」
「いや〜ほんと申し訳ないです」
「しょうがないですよ。あんな酷い天気で外に出たら、それこそまた倒れちゃいます!」
ようやく出ていった............と思ったらまた帰ってきた。玄関から部屋へ戻ってきたタケルを見て、ガブリエルは呆れ顔を浮かべていた。
「でも困ったなぁ。できれば今日中に帰りたいんだけど............」
「何処へだ」
「俺の故郷、ティマイオです」
「ティマイオ..................ああ、ヴァルハラを南に下ってったところにある田舎町だな」
エルナは再び茶を汲み直し、二人へと配膳したのちに会話へ合流した。
「そのティマイオってどれくらい遠いんですか?」
「そこまで距離があるわけでもない。準備さえ整ってたら途中でくたばるほどじゃあねえな」
途中でくたばり、エルナに運ばれた
「ハハハ、ほんと情けないです」
「全くだ」
「砂嵐がおさまったら私たちが送ってあげましょうよ。準備をしっかりしたら大丈夫なんですよね?」
「砂嵐さえ消えたらな」
「決まりですね!じゃあ、途中でお腹空かないように弁当作ってきます!」
「遠足しに行くんじゃねえんだぞ」
ガブリエルは二人に顔を合わせずに茶をすすりつつ、書類の山と向かい合ってペンを走らせている。
「ガブさん、今時アナログで仕事ですか?金輪天使なのに珍しいですね」
「仕事のやり方に金輪も銅輪も関係無えだろう。古臭くても、俺には紙と睨めっこしてんのが性に合ってんだよ」
「へえ、いぶし銀」
何気なしに視線を動かすと、エルナが台所で楽しそうに調理ををしているのが見えた。鼻歌にノリつつ包丁を操っている。
その様子をタケルはじっと見つめ、ガブリエルへ向かって呟いた。
「いい子ですね、エルナちゃん。ほんの数時間前に会っただけなのに............ちょっと見ただけでわかりますよ」
「...............どうだかな」
「あっ、今ちょっとニヤけましたね!?」
「うるせえ!他人の部屋に邪魔してんならちったあ大人しくしてやがれ!!」
「ひゃーすいませんでしたぁ!」
阿修羅の眼光、再び。冷やかしから捕食寸前モードへと一瞬で切り替わるタケルであった。
ド迫力の剣幕でまくし立てたガブリエルだったが、数秒の沈黙を挟んで独り言のように呟いた。
「ただ、あいつは生まれてくる時代を間違えたんだ。こんな今の天界にはもったいないくらいだ」
「そんなもんですかねえ」
「そんなことより外出る準備しとけよ。近いうちに砂嵐もおさまるだろうからな」
「了解です!」
しかし準備とはいえ、手ブラのタケルには体調のチェックくらいしかやることがない。
ガブリエルはこのように事務机で作業をしているし、エルナは家事を続けている。二人とも何かしているのに、自分だけ座っているだけなのも申し訳ない気がした。
「そうだ、エルナちゃん。何か手伝えることないかな。出発まで手を貸すよ」
「えっ、そうですねぇ。う〜ん、でもやることは今ので大体終わっちゃいましたから、休んでても大丈夫ですよ」
「そう?わかった、ありがとうね」
適当に菓子をつまんだり、エルナとくだらない話を繰り返しているうちに、機を待ったかのようにガブリエルが窓の外を覗いた。
「だいぶ引いてきたな。こりゃあ今が行き時かもしれん」
「出発ですか?」
「ああ。行くぞ」
事務机から腰が上がり、ようやくその全貌が明らかになった。
タケル自身、それなりに鍛えていたこともあって己の肉体に自信はあったのだが、ガブリエルのそれはさらに上を行くものであった。
顔のイカツさも合わさって、彼に天使という称号は似合わないのではないか?と思ってしまうほど。
「よーし!じゃあ行きましょう!」
エルナは弁当箱を入れたリュックを背負い、ガブリエルは適当な上着を羽織って玄関へと出ていく。
もちろんタケルも後に続いた。
新米の銅輪天使 @lilliput
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。新米の銅輪天使の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます