たぬきのタヌデレラ

ぴけ

たぬきのタヌデレラ

 昔々あるところに、たぬきのタヌデレラがおりました。タヌデレラは、継母たぬきとその娘である姉たぬきに毎日意地悪されながらも、実母の形見の土鍋でごはんを三食作り、掃除洗濯などの家事を不器用ながらもこなしていました。ある日、隣国の王子がお嫁さんを選ぶため舞踏会を開くとの噂が届きました。


 さっそく継母たぬきと姉たぬきは、葉っぱで美しい人間に化けてお城へと向かいました。皆のように上手に化けられないタヌデレラは、家でひとり留守番をしていました。お城の料理は美味しいんだろうなと想像していると、どこからともなく現れた妖たぬきが、タヌデレラを人間の姿にしたではありませんか。


 そして妖たぬきは形見の土鍋にも妖術をかけました。すると土鍋がみるみる大きくなり、ふわりと宙に浮きました。妖タヌキは、これに乗れば城にすぐ着くから迷子になる心配はないと言います。そして、妖術は日が変わると解けてしまうから気をつけるようにねと、土鍋に乗ったタヌデレラを送り出しました。


 お城に着いたタヌデレラは、テーブルに並ぶ料理を端から端まで味見して、なんて美味しいんだと感動していました。とっても幸せそうに味わっている姿を見つけた王子は、タヌデレラを踊りに誘いました。二人は踊りながらお話をします。こんな料理を私も作りたいとタヌデレラが言うと、王子は笑いました。


 そして王子は、僕も幼少の頃からこの味が好きなんだと、互いに料理の話で意気投合しあいながら踊り続けました。タヌデレラが気づいたときには、24時を告げる鐘が鳴り始めようとしていました。もし正体がバレたら調理されてしまうと慌てたタヌデレラは急いで空飛ぶ土鍋に乗り込み城を去ろうとしました。


 そのとき、うっかり土鍋の蓋を落としてしまいました。たぬきに戻ったタヌデレラは元の大きさに戻った土鍋を拾いました。タヌデレラは、大切な形見だし、それに蓋が無ければ明日からごはんが炊けないと悩みましたが、どうしようもありません。仕方なく次の日からタヌデレラはパンを焼くことにしました。


 パン食が続いたある日、明日はごはんじゃないとお前をこの家から追い出すからねと継母たぬきと姉たぬきに脅されてしまいました。土鍋の蓋が見つかっても、捕まって料理にされてしまうに違いないとひとしきり泣いたタヌデレラは、土鍋を抱えて城へと向かい、門番に土鍋の蓋を返してほしいと言いました。


 すると門番は驚き、なんとタヌデレラを王子の元へと案内したではありませんか。再度、返してくださいとお願いすると、王子は君があの時の君なのかいと尋ねてきました。タヌデレラは頷き、あの夜熱く語り合った料理の話をすると、納得した王子は君は料理するのは得意かなと不思議な質問をしてきました。


 掃除洗濯は苦手ですが、料理は得意ですとタヌデレラは正直に答えました。すると王子は、あの味をずっと食べていたいけど、幼少の頃から勤めてきた料理長がそろそろ料理が難しくなってきてね、跡継ぎを探しているから試しにやってみないかと提案しました。タヌデレラはもちろんやりますと即答しました。


 あの味をずっと食べていたいのは王子もタヌデレラも一緒でしたから。王子と一緒に厨房へ行くと、料理長が土鍋の蓋を渡してくれました。それからというものタヌデレラは修業を積み、料理長の味と技を完璧に習得しました。なので、今でもお城では昔と変わらず大層美味しい料理が毎日並んでいるそうです。


めでたし、めでたし。

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