3つの願いを叶える壺ってやつがあるらしいが?

おさるなもんきち

壺と男の駆け引きのはずが、

首都から遠く離れた山奥の洞窟を前に、男は目を輝かせていました。


「ここが、かの有名な願いを叶える壺が隠されている洞窟か!興味本位で来てみたけど、本当にたどり着けるとは思っても見なかったぜ!」


そう話しながらも、男の目には涙が浮かんでいました。

願いを叶える壺の伝説という、眉唾物の噂を聞いた男が、ある目的のためにその噂の出所を尋ね歩く事一週間。さらにさらにと詳しい話を聞く事ひと月。

さらにそこから一月かけてようやくここまで来たというのが今までの経緯。


雲をつかむような噂話から本当にここまで来れたんだと感動しながらも、肝心の壺よ待ってろよ!と喜び勇んで一歩踏み出した瞬間、男は落とし穴に落ちてしまったのでした。


・・・・


・・・


・・


「どれくらい気絶してしまったんだろうか?」


下に落ちたかと思えば今度は体が横に動き、ぐるぐる回ったまでは覚えていたんだけど、気が付けば真っ暗な空間でのびていた男。


あたりを見回すも、そもそも真っ暗闇で周りが全く見えません。

こんな場所にずっといるのも怖いので、男は手探りしながら周りの様子を掴もうとしましたが、見つけたのは、なんだか壺の様なもの。


まさかこれがあの壺なんだろうか?まさかね…


「ろくに確認もしないで入った結果これかよ!正直俺かなり間抜けでおバカじゃねぇのか?全く何やってるんだか!」


そんな事を思ってたら、本当にむしゃくしゃして来て、思わずさっきまで触っていた壺に向かってケリを入れようとしたら…


「ウェイト!ストップストップ!落ち着け若いの!」


なんて声がしたんだ。

知らねぇよ!なんて思って蹴り飛ばそうとしたら、その声は更に大きくなってきて俺を必死に止めようとするんだよ!


なんだなんだ!と思いながらも、その声の主に興味を示した男は何気なく「んじゃ、それ一個貸しで!」なんて言いながら、声の鳴るほう向かって行くと、やっぱりその正体は壺。


「っったく!いきなり儂を蹴り倒そうって!全くどういう教育を受けて来たんかね?こんなオサレでファッショナブルな壺ちゃんなのに、少しも興味がないのかい?」

「つーか、ここ真っ暗すぎて見えんのよ。お前さんが壺ってやっとこさ認識したところだから無茶言うなよ!わざわざ見つけてやったのに、まったく心の狭い奴だねぇお前さんは」


そんな壺がいきなりしゃべった事に内心かなり驚いていた男だったが、これが噂の壺であるのであれば、かなり用心して当たらないといけないと気を引き締めて話をしようとします。


ここに来る間、男が聞いた噂はいろいろありましたが、人々が口をそろえて言っていた事は三つ。


一つは3つの願いを要求してくる。

言葉巧みに対象者の願いを聞き出し、それを「叶える」らしい事。


一つは「叶える」という条件が非常にアバウトであるという事。

壺はとても気分野でマイルールを持ち、基本願いを叶えると言いながらもほとんど叶えないまま壺の中からほくそ笑んでいるらしい。


一つは3つの願いを叶えたと判断されたら、対象者から何らかの力を抜き自分のモノにしてしまうというもの。願いを叶えた代償は意外と大きかったらしい。


そんな話を思い出しながら、男は壺に向かって再度気を引き締める。壺のマイルールなんかに巻き込まれる前にこっちが主導権とってやる!冷静になれ!と思っていると、さっそく壺は男に向かってアプローチをかけてきます。


「時に、おぬしは願いを叶える壺というものを知らんかね?」

「うんにゃ?シラネ。こんな初歩的な罠に引っかかって訳の分からない場所に落とされた間抜けな俺が、そんなん知ってるわけないだろ?なんで俺がここに来たか知ってるか?」


「ん?てっきり儂を探しに来たとばかりに思っていたが、そうではないのかね?」

「一人になりたいからだよ!世間の荒波にもまれすぎてすっかり疲れちまってよ。こんな山奥の洞窟だったら誰もこねぇだろ?って思って一歩足を踏み出したらこのザマさ。まぁ、こんな訳の分からない場所だったら人も来ないだろうって思ったらよ、なんで人の言葉をしゃべる壺なんてあるんだよ!お前本当に邪魔なんだけど!!!」


「壺だから動けないに決まってるだろ!それを言うなら、ここにいたのは儂が先じゃ!おぬしが出ていくのが当たり前だろうが!」

「たかが壺ごときに権利があるんか!なにか?お前はここのダンジョンマスターか?それともダンジョンの権利書でも持ってるんか?ああん?」


「ぐぬぬぬ・・・見ておれ・・・」


そんな会話を繰り広げていると、男が手に持っていた壺から、何やらガサゴソ音が聞こえて来るので、男は何やらにやにやしながらも少し強い口調でそれを止めに入る。


「おっと、こんな狭くて真っ暗な場所で証拠出されても俺見えねぇからな!きちんと証拠を示したかったら、正々堂々お天道様の下で見せろよ!」

「うっさい!少し黙っとれ!この小童が!」


「なんでもいいけどよ、証拠がないんだったらお前はただの壺。俺には不要の長物って奴だ。しかも俺は一人になるためにここに来たからお前は邪魔者。迷惑以外何者でもないんだよ。わかってるの?」

「・・・・がっぺムカつく」


これはいい方向で話が進んでるぞと男は笑いが止まりません。


ここまでの願いはまだゼロ。相手に貸しを一個作ってあわせて4つ。どうやって使ってやろうか?と思っていたところ、ようやく何やら証拠が出て来たようで、壺からガサゴソという音が消えた。


「みよっ!これがダンジョンコアじゃあ!ここは儂の支配下にあるんじゃ!ほれほれ見てみぃ!」

「だから真っ暗で見えねえっつってんだろう!しかしよ…お前も ダンジョンマスターっつけど、なんでこんな暗い所でひっそりしてんだよ。わけわかんねえよ」


「ダンジョンマスターだからつって、ゆうゆうと冒険者を待つような強い奴ばかりじゃないってことじゃ。ほら、儂、壺じゃから」

「なるほど…ってか、いまだになんも見えないんだけど!これ、どうにかなんねーの?出来たら外出たいんだけど」


するとツボは言いました。


「ほほぅ~今願いを言ったな。一つは今の状況をどうにかしたい、一つは外に出たい。その二つの願いを叶えてつかわそう!」

「ま、マジカ!」


次の瞬間、男と壺は洞窟の前にいました。

男は自分の失言に頭を抱えながら、どうしようかと考えていました。


「つーか、そりゃねーわ。状況どうにかしたいから外に出たいで1セットじゃないのか?」

「はて?何のことやらさっぱり?儂がルールじゃからのう。願いを叶えてやったのに文句ばっか垂れる馬鹿者が調子こくでないわ」

「ぐぬぬぬぬぬ」


「じゃあとりあえずさっきの借りは返してもらうぞ、 壺だからって言って恩を感じぬ馬鹿者じゃねぇだろ?おまえは」

「ったく減らず口を! わかった、願いは一つということにしてやろう。あと二つじゃ」


ここで男は考えました。願い事はあとふたつ。

ここで真剣にお願いをしないとまたはぐらかされて しまうのではと思った男は、壺ツボに向かって願いを言うのでした。


「では壺よ、私の願いを叶えてくれ。 俺の国に来て宰相としてその知識で俺を助けてくれ!」

「は、はいっ?」


これには壺もびっくりしてしました。

今まで願いを叶えてきた男や女は、まずは金、もしくは美貌ないし力を望むのが一般的であり、自分の知識を求めるなんて事は今までなかったからです。


「俺の国、すんごいちっちぇんだ。出来たばっかりで人もお金もほとんどない。しかも周りは脳筋だらけ、頭を働かすことができるのは俺だけってもう絶望的な状況なのよ。あんたのことは色々な人から色々そう聞いた少なくともかなり長い年月生きてるって事だろ?だったら知識量も半端ないはず!だからそれを見込んで頼む俺に力を貸してくれ」



「何も非人道的なことをしてくれなんて言わない。 週5日8時間、主に俺の助っ人として政治の助言をしてくれるだけでいい!あとの2日は休みだ。お前の自由にしていい。もし了承してくれれば働き次第で特別ボーナスも!どうだ?頼む!俺を助けてくれ!」



そんな真剣な願いを聞きながら壺はとても感激していた。今まで壺は、自分が持つ願いを叶えるという能力でしか自分を認めてもらえなかった。


だけど、今、目の前の男は自分の知識を買ってくれている。今までこんな奴がいたのだろうか?いやいない!それだったら目の前で真剣に頼み込んでいる男に賭けてみるのも良いのではないか?


「わかった。私の知識をそなたに貸そう」

「そうか!助かる!ありがとう!これでやっとまともに政治が出来る!ありがとう!」


そんな男の喜ぶ声を聞いて、壺はこんな人生も悪くないのかもと思い始めていた。


「では、壺のままだと 格好がつかぬから出るか」

「 ありがたい。壺のままだと言うこと聞かねえ奴もいるだろうからな」


素直に感謝する男に気を良くした壺は、数百年ぶりにその姿を現した。 次の瞬間、男は目を見開き壺の前にひざまずきこう言ったのだ。


「けっ、結婚してくれ」

「だが断る」


壺は思い出した。

なんで自分が壺に入っていたのかを。

自称ではなく、自分が誰もが惚れる絶世の美女であるということを。あまりに求婚が激し過ぎて、世間が嫌になった自分が、壺に引きこもった事を…


その表情を見た男は、すまなかったと自分の言葉に対して反省を述べていたが、これで願いが三つ。


でも…


「今のはノーカン。聞かなかったことにしといてやる。さあお前の国に行くぞ!」


そういうと人の姿になった壺は、魔法を駆使して男と一緒に移転の魔法を使うのでありました。


人を信じられず、自分のルールをガチガチに作りまくった自分でも、ルールを変えることがあるんだな。こんな人生も悪くないかもしれない。


これからどんなことがあるかわからないが、少しでも信じたこの男を信じてみるのも良いかもしれない。


そんなことを思いながら微笑み!壺は男と空間の隙間へ消えていくのでありました。





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