衝動

第1話 衝動

　ここはオレだけの空間。

　オレだけの世界。

　オレを脅かす物は何もない。

　時々外からオンナの声がする。

　うるせえ、オレは静かにしてくれ。

　オレの中の何かが命令してくる。

『このままでいいのか？

　お前はこの暗い部屋で一生を過ごす気か』

　うるせえ。オレはこのままで居たいんだ。

　雨が降って来た。もう梅雨なのか？

　何度目だろう、この季節は嫌いだよ。

　みんな夏に向けてソワソワし始めやがる。

　気の早い奴は早々にオンナを探して飛び立ちやがる。

　彼女・・・

　嫁・・・・

　女の子・・・・

　女の子の肌って柔らかいのかな？

　オレにもそんな時が来んのかな・・・

　って、知るか！！

　オレは一人でいいんだよ！

　オレは一生この暗い世界で生きてくんだ。

　リア充乙！リア充師ね！リア充爆発しろ！！

『外の世界へ飛びだせ

　ここはお前のいる場所じゃない

　ホンの少し、ホンの少し手を伸ばせはいいんだ！

　その殻をぶち破れ』

　うるせえ、うるせえ、うるせえ！

　オレに命令すんな！

　オレは、オレは！オレは…。

　抑えきれない衝動にオレはたまらず這いだした。

　ちくしょう、ちくしょう！ちくしょう！！

　身体が熱い、今まで何度か同じ様な事があったが今回みたいなのは初めてだ。

　ミシっ、ミシミシっ…

　オレは今までの自分を脱ぎ捨てた。

　ジリジリ照りつける夕陽がオレの羽を焦がしていく。

　5分程だったがオレには今まで生きて来た時間と同じくらい長く感じた。

　オレはゆっくり羽ばたいてみた。

　うん、飛べる！

　オレは樹液を求め近くの木に飛んでいった。

　見た事もないいい蝉（オンナ）。

　今分かった、オレはこの為に生きてたんだ。