兄に扮して文化祭! 〜告白失敗確定演劇とヘタレ兄貴〜
咲兎
兄に扮して文化祭!
なぜこうなったのか、昨日の僕には想像もつかなかった。
いや今も信じたくない……。
「ドオオオリアアアア!!!」
「グワアア! そ、それは、真・飛閃斬!? 完成させたというのか!?」
こんな意味不明空間に、今から3分も入らなきゃいけないとか!
◇
……話は昨日の夜に遡る。僕は、ベットの上で転がる兄と話をしていた。
「ゴホォ、あー、もう明日の文化祭には行けねぇかもな」
「大丈夫?」
「なぁ、もうお前が代わりに高校行ってくんねぇ?
明日中学、創立記念日で休みだろ? お前、高校、推薦でうちに決まってるんだし丁度良いじゃねぇか」
「何ふざけた事言ってんの?」
「まじで無理そうでさ……頼む!」
「いや、僕が行ってもどうしようもないでしょ」
外部の人は、お客さんでしょ普通。
「お前が俺を演じればいいんだよ! 大丈夫だ。お前は俺に似てるからいける!」
「いける訳ねぇだろ」
仮にいけたら、それはそれでふざけんなって言いたくなる。
「いや、でもマジで行きたくな……じゃなくて、風邪がね?」
「……挑戦するだけだからね。後、捕まったら責任取れ」
「おぉ、サンキュ!」
と、言った感じで、兄の高校の文化祭に行く事になった。
兄と背丈はほぼ同じなので、制服は着れる。後は、兄と髪型とかを一緒にして、変装し、文化祭に向かったんだけど。
「陽斗、はよーす、昨日は暇だったそうっすね」
教室に向かう途中、話しかけられた。え? 気づかないの? 後、誰?
「……そうだな」
「よ」
僕が戸惑っていると後ろから声を掛けられた。
あっ、この人は何回か会った事がある。兄の友達の和久井君だ。この人ならさすがに。
「陽斗。今日も相変わらずだな」
全然相変わらずじゃねぇよ。気づけよ。
「はは、本当っすねー」
だから、お前は誰だよ。
「今日、柏崎先輩に告白しようっていうのに、大した奴だぜ」
「……はぁ!?」
えっ!? 何? 告白!? ちょ、待って! そんな事、事前に一言も言われなかったぞ!?
ま、まさか、ヘタレクソ兄……周りは告白する流れになってたけど、やっぱり勇気が出ないから、僕を行かせたんじゃ!?
「ちくしょおおお!!!」
「急にどうした!? はぁ、お前の変人っぷりは相変わらずだなぁ……」
「本当っすねぇ」
マジか、兄貴。いつも素でこんな事やってんのか、これなら、もう大抵の事が許される気がしてきた。
よし、じゃあもう聞いちゃおう。
「ところで、そっちのあんたは誰だ?」
「酷いっすね!? 同じ部の小林っすよ! 確かに陽斗はほぼ幽霊部員だから、あんま会ってないっすけど!」
同じ部? そういえば兄貴は演劇部だったっけ?
「あぁ、そうだったな。悪い」
「本当っすよ」
にしても、告白……か。まぁ、僕は本人じゃないし、当然しないべきだよね。
「その告」
「おぉ、告白な、実は陰で話題になってるんだぜ!
あのお前と文武両道高校一の美女の柏崎先輩がどうなるか!
まさか、やめるとか言わないよな!」
「……ちなみに、陰でってどの位?」
「まぁ、全校生徒の8割方話題にしてるかな」
やらなきゃ、兄貴の今後の高校生活が……死ぬ! ヘタレ糞でも一応兄! 助けないと!
「やるよ、どんな結果になろうとも!」
「おぉ、それでこそ男だ! ちなみに、校内予想ではフラれるが99%だ!」
「校内での俺の扱いなんなの?」
「ネタキャラっすね。でも俺は上手くいく予想っすよ、大穴で!」
兄貴……色々と可哀そうな奴だ。今度50円のジュースを奢ってやろう。
◇
その後、文化祭が始まった。兄のクラスの出し物は何の捻りもない喫茶店だ。本当に普通の喫茶店である。
「コスプレとか見たかったなぁ」
そう呟くのは、和久井君。いや、楽で良いでしょ。
そんな平和で、暇な時間が2時間続き、丁度、僕と和久井君のシフトが終わった時、それは起きた。
教室に小林君が駆け込んできたのだ。
「大変っす! 今日、演劇部病欠多数で午後の公演が! 打ち合わせの為、2人にも来てほしいっす!」
「何! 行くぞ陽斗!」
「あぁ!」
そうして、僕達は部室に着いた。ここに、演者達が集まっているらしい。
その場にいたのは、僕達含め6人だった。
「来ましたか」
そう呟いたのは、黒いドレスの衣装の女だ。
「演者はここにいる部員で全員……今回は内容が内容、この人数で大丈夫でしょうか?」
「まぁやるだけやるしかないでしょう、部長」
黒いドレスの女はどうやら部長みたいだ。にしても。
「えっと、どういう事ですか? 内容が内容というのは?」
「あなたが言いますか。脚本担当」
「……え?」
ちょ、待って。兄貴、幽霊部員なのに脚本書いたの? そして、自分の脚本の舞台なのに休んだの!?
これは、もうヘタレじゃない……屑だ! 屑兄貴だ!
50円ジュースは取り消しだな。と、とりあえず……。
「脚本をもう一度確認したいのですが」
「あぁ、良いですよ。どうぞ」
部長から、脚本を手渡される。
……えぇ、何これ……これは酷い。
脚本は端的に言うと、光の勇者と闇の勇者が争う厨二作品だった。
そして、何より酷いのは、最後の3分間に全能神が2人の間に登場して、全てを解決させるという絵に描いたようなデウスエクスマキナ。
そして、その全能神が兄貴なのだ。こんなん誰が見るかボケ。
「……1つ聞いて良いですか? なんでこれ採用した」
「これの最後に、告白するって言うから面白そ、手伝ってあげようと思って」
「おい」
こんなん失敗が目に見えてるだろ。こんな話の後にOKする女はいないだろ。
くそっ、こいつら完全に失敗させようとしてる! そうはいくか!
兄貴を助ける為に告白すると決めたんだ! どうせするなら、失敗よりも成功の方が良いに決まってる!
て言うか、大衆の前で告白とか嫌だ!
「というか、午後にこの会場に来るとは限らないでしょう!」
「今さら何言ってんだ? その為に私が呼んだんだろ。絶対来る」
そう言うのは、白いスーツを着た女、多分の光の勇者役だ。
うわぁ、逃げ場がない。
◇
その後、6人の役の振り分けが決まり、午後、公演が始まったのだが……
「フハハハ!!! この我が、魔お」
「死ねえええ!!!」
「己、闇の勇者あああ!!!」
強そうな魔王が出オチだったり……
「食らえ! 光の勇者に代々伝わる奥義!」
「なっ、あれは」
「知っているのか、闇の勇者!?」
どっかで見たようなネタが出てきたり……
「光の勇者の攻撃! 闇の勇者は30のダメージを受けた!」
何故か、途中からナレーションがRPG風になったりと凄くカオスだった。
そして、いよいよ今、全能神が降臨する劇の最後の3分間が来ようとしていた。
「ドオオオリアアアア!!!」
「グワアア! そ、それは、真・飛閃斬!? 完成させたというのか!?」
す、すごい。糞みたいな脚本と台詞に反して、殺陣は惚れ惚れするぐらい見事だ。
ここに今から入るのか、演技なんてした事ないけど……。
いや、するのは、演技じゃなくて良い。
……僕がするのは!
「やめろ!」
自分の思うままの台本にないアドリブ!
それで、台本の展開を避ける!
「「……」」
台本と僕の台詞は違ったが、2人は一言も声を発せず、僕の言葉を待つ。
「わ、私は……じょ、序盤で倒された魔王の生まれ変わりだ!」
「「な、なんだってえええ!!!」」
明らかに、神様みたいな格好してて無理があるけど、ぽっと出の神よりは良いはず。
「闇の勇者に倒され、気付いた……えっと、そうだな、積み上げてきたものもある時一瞬で崩れてしまうという人生の儚さをだ!」
おっ、何かそれっぽい事言えたぞ!
「争って意味はあるか、得るものも所詮は壊れゆく」
「関係ない! 私達は、互いに仲間だった! それでも、守りたい物の為、戦うと決めた!」
うわ、そういう設定だったか……緊張しててよく見てなかった。
「そうか……ならば、ならば……」
お、思いつかねえええ!!!
その時だった。ふと、会場から僕に視線が向けられている気がした。
ふと、そちらの方を向くと、最前列にはかなり綺麗な人が座っていて……。
あれ、この人。あ、あああ!!!
「……お前たちのそれは、言い換えれば、不壊。仲間になればいいだろう……私が犠牲となれば良い」
そう言って、僕は舞台袖に消えた。後は何とかして!
◇
その後、2人の見事なアドリブとナレーションの機転で劇は無事終了した。この部の部員有能過ぎない?
これで、舞台上での告白は回避出来た。
本番の告白はこれからだ。でも、僕は今緊張するどころか、告白相手の元に行きたくて気が逸っていた。だって、多分。
「おい! アドリブは良いがよ、最後に告白しないのはどういう事だ!」
「なぁ、あの最前列にいたのが、柏崎先輩だよな」
「え? 今さら何言ってんだよ」
「そうか、ちょっと会ってくる」
「ちょっと待て証人を用意してから!」
僕は、呼び止める和久井君を置いて、柏崎先輩の出て行った体育館の出口に走った。すると。
「やっぱ来たね」
柏崎先輩は出口にいた。この行動、もしかして?
「……気づいてるんですか? 僕が誰か」
「勿論」
嘘、久々だし、こんな格好なのに……バレた以上、告白の事は直接伝えよう。
「お、お久しぶりです! 先輩! 会えて本当に嬉しいです!
あの、今日兄に告白された事にしておいてくれませんか? 学校中で話題になってるみたいで」
「……あ、そう言う事。その格好といい大体事情は察した。
一応告白にも答えておくとね、悪いけど」
「あの!」
僕は、思わず声を遮った。分かってたさ、この柏崎先輩相手なら妥当だよ。そりゃそうだよゴミ兄貴。
……でも。
「その、兄は荷物持ちとかで役に立ちますし、意外に頭良いですし」
「ぷ、ははは!」
僕がそう言うと、柏崎先輩は堪え切れないかのように吹き、笑いだした。
「何かおかしかったですか!?」
「いや、あまりに必死だったからちょっと。別に陽斗君の事が嫌いな訳じゃないから、友達としてならOKしようとしてたよ」
「本当ですか! じゃあ良いです!」
むしろそれが良い。あのヘタレは、自分で距離を縮めるべきだ。
「ふふ、相変わらずだね。そうだ。来年、この高校通うんだって?
頑張ってね
終
兄に扮して文化祭! 〜告白失敗確定演劇とヘタレ兄貴〜 咲兎 @Zodiarc2007
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