少女と精霊の冒険 少女の心が届くとき

「フラン……?」


 鏡の向こうに見える、もうひとつの鏡。

 そこに映ったのは、小さくてよく見えないが、まちがいなくフランだった。

 いつもと違う服装だけど、いつもの真っ赤な髪。まちがいなくフランだ。


 両手が赤く紅く燃えている。


「サリーちゃん! フランどうしたの?」


「ありゃあ……魔力の、暴走だ」


「魔力の、ぼうそう?」


「人には魔力がある。魔術も神術も、力の使い方は違うが、同じ力を使っている。その力が魔力だ。これは解るな?」


「うん」


「フランは自分の中にある魔力を、うまく使えてないんだ。フランが魔術を使いたくないと思っても、勝手に魔術が発動してしまっている状態だ」


 説明を受けても、本当にわかったかどうか自信がもてなかったが、セーラは、フランが泣いているように見えた。

 きっと泣いている、間違いないと思った。

 フランの、恐怖が、不安が、なだれ込んでくるようだった。



 セーラは我知らず、祭壇によじ登り、鏡の縁に両手を添えて、鏡面に顔がつきそうなほど接近していた。


「フラン! フラン! がんばって!」


 涙が出そうになる。

 必死に堪えた。

 泣いたら、言葉が出なくなる。


「フラン! お願い! がんばって!」


「セーラ……」


 サリエルは、セーラがこんな風に大声を出すのを初めて見た。

 いつも大きな音に怯えて、誰にも気付かれないようにこっそり行動して、息を潜めるようにしている。


 この鏡は、鏡の向こう側にいる人間と会話ができるというものだ。

 特殊な結界術で作られている。これは、かつての妖精王が、当時のラジェール公爵と人目を忍んで会話をするために作り、贈ったものだ。

 もし、あの向こう側にある鏡も同じものなら、今ここで必死に叫ぶセーラの声も、あの向こうの鏡を介して、あっちに、フランに届くかもしれない。


 サリエルは、気付けば祈っていた。

 セーラの声が、届きますようにと。

 神なんて、ずっとクソヤローだと思ってきたのに。


「フラン! 帰ってきて! 一緒に、おやつ、たべようよ……!」


 セーラの声が、涙でくぐもっていく。

 すっかり泣き出してしまい、うつむくセーラの頭上に、暖かい、橙色の光が灯った。

 セーラが顔を上げて鏡を見ると、向こう側の鏡には、夕焼けに照らされた、静かな森の中で、ハーミットに抱きかかえられて眠るフランが、映っていた。

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