少女と精霊の冒険 妖精王の怒り

 セーラは、ジニアが見ているもう一枚の鏡を、その背中越しに見ていた。

 あまりにむごい、あまりにひどい、その戦闘を。


 セーラは耳をふさいで、目を閉じて、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

 それでも、小さな手ではふさぎきれない邪悪な声が耳を突き刺す。


 羽虫。

 羽虫ってなんだ。

 なんのことを言ってるんだろう。

 わからない。

 わからないけど、ハーミットの悲しみが、絶望が、どうしてだろう、自分の心に流れ込んでくるような気がしていた。


 この人は、許しちゃいけない。


 それだけは、わかった。


「サリエル。すまない」


 鏡の向こうの妖精王が、静かな声で言った。


「私が、ここに戻らなければ、誰か、この鏡を見に来た者に、伝言を頼みたい。私の娘を、次の王とせよ、と」


「おい、お前――」


「そして、何があっても幻術結界を解かないようにと」


「おい待て!」


「頼んだぞ」


 サリエルが、鏡に張り付いた。

 その向こうで、ジニアは、向こう側の鏡に手を当てた。


「ジニア!!」


 サリエルの叫びはむなしく空振り、ジニアの姿は鏡に溶けて行った。

 後に残された向こう側の鏡には、氷の柱の上で学院長に守られるフランが映っていた。

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