輝石病の真実
「アルは、呪術師、という人間を知ってる?」
リナリアの問いに、アルバートは頷いた。
「知識としては知っている。呪術は現在では禁じられた術ゆえ、それを扱う呪術師も、今は国に存在していない」
「うん、その、呪術師がね、大昔の王子様に頼まれて、他の王子様やお姫様を殺すために作らせた、呪いが、輝石病なんだって」
「呪い? 毒ではないのか?」
アルバートが知っているのは、輝石病は、王族同志の後継者争いの中で生まれた毒物が元凶の、公害のようなものであるということだった。しかもこの事実は、国民には隠蔽されている。
輝石病という病は、医師など、ある程度医療にかかわりのある国民は知っているが、「王族が作り出した毒が全ての発端である」ということは、一部の王侯貴族にしか知らされていない、最高機密だ。
「そう。毒じゃないの、呪いよ。姉さまもこの前少し言ってたけど」
リナリアはそこで、下を向いた。
「それでね、その呪いのために、私たち妖精の……妖精の、死体を、粉々にして、香に交ぜて、呪詛をこめたお香を作るんですって」
「なんだって?」
「死体。私たち妖精は、死ぬと、結晶化と言って、人間たちの言うところの宝石のようになってしまうの。宝石でできたお人形だなんて、人間には言われたりしたみたいよ。それをね、粉々に砕いて……」
「信じられない――何と言う非道だ」
アルバートの震える声で、リナリアが顔を上げると、アルバートは今にも泣きそうな顔をしていた。
「それで、そのお香を、呪いをかけたい相手の近くで焚く。ほんの数分、吸い込ませれば十分に効果が現れるんですって。そして、その香を作った呪術師だけは、その呪いにかからない方法を持っているんですって」
「呪いにかからない方法?」
「材料にした、妖精の死骸の、欠片を体内に埋め込むこと」
アルバートは目を見開いた。
目の前にいるリナリアは、小さく、可憐で美しく、そして生きている。
この、御伽噺や絵本の存在ではなく、生きている、本当に存在しているその命が燃え尽きたあとの結晶を、残酷にも砕き、人を呪い殺す材料として、さらにはわが身を守るための道具として扱う。
なんという侮辱だろう。
なんという無礼だろう。
「人の所業ではない……!」
怒りに震えるアルバートを見て、リナリアの胸はきゅうっと痛んだ。
そんな、そんな悲しみと怒りに沈むような顔を、してほしくなかった。
「それでね、アル。あなた、どこまで調べているかわからないけど、きっと、ラジェール領の人間と、妖精たちの間に交流があった時代までは、輝石病は治せるものだったんじゃないかしら?」
「……ああ。そうだ。だから、妖精の泉が、特効薬なのかもしれないと思ったんだ」
「そうか。そうなのね。あのね、お母様によると、眼球が輝石化しただけの段階であれば、泉の水と、目にいい薬草と、呪いを祓うのに使うようなものをあわせた薬を作れば、多分呪いを止めることができるって」
「呪いを止める?」
「そう。それでも呪いを消すことはできないから、一度呪われてしまった瞳は、もう戻らないんですって。だから、その、泉の水も、効果がないわけじゃないみたいよ」
リナリアは、あなたの予想は半分くらい当たってたよと言って慰めたつもりだったのだが、アルバートは肩を落とした。
「そうか。だが、そうか。完治させることはできないのか。ではなぜ、昔は治っていたんだ」
「あ、えっと、それはね」
リナリアはここで一瞬迷った。
ごくりとのどが鳴った。
ここから先を伝えても、アルバートは自分を害さないだろうか。
妖精の里を攻撃したり、しないだろうか。
リナリアは、ぶんぶんと頭をふって不安を追い出すと、アルバートの瞳を見つめて続けた。
「それはね、治す方法が他にあるんだよ。妖精の血を……瞳に一滴ずつ垂らすこと」
「……なんだって?」
アルバートが愕然としている。
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