少女と精霊の冒険 3
真っ白な光の先は不思議の世界につながっているような、そんな気がしていたセーラは、光の扉を抜けて、目の前が普通の物置のような小部屋で、少しがっかりした。
「このはしごを上れば屋根裏部屋だぞ!」
サリエルが、壁に備え付けられたはしごをさしてそう言うと、セーラの後ろでぼんやり光っていた光が、ふうっと消えて、何もない壁になった。
同時に室内は、はしごの上から差す陽光のみが明かりとなって、薄暗くなってしまった。
「あっ! サリーちゃん、どうしよう! 入り口、消えちゃった」
「大丈夫だよ、俺がいれば。外からは俺と本が揃わなきゃ開けられないけれど、内側からなら、俺がいれば開けられるから」
「う、うん」
「早くはしご上ろうぜ。暗いから、気をつけて」
セーラは恐る恐るはしごに手と足をかけた。
ぎしぎしと軋む音に、どきどきしながら、ゆっくり一段一段上っていく。
サリエルはすいすいと上に上っていき、四角い穴からセーラを見下ろして待っていた。
セーラがひょっこりと顔を出してみると、狭くて天井の低い室内の中央に、木でできた祭壇のようなものがあり、上から布がかけれていた。
よいしょと声に出してよじ登った屋根裏部屋は、天井が斜めになっていて、まるで絵本の妖精がかぶっている、三角のとんがり帽子の中に入ったみたいだとセーラは思った。
天井には天窓がついていて、祭壇に陽光が降り注がれている。
「なんだか、秘密基地みたいだね」
「秘密基地なんだよ。まあ、こんなとこにこの鏡さえなければ、セーラと俺の秘密基地にしてもよかったんだけどなあ」
サリエルは笑いながら、本気なのか冗談なのかわからないことを言って、祭壇の横に移動した。
セーラもとことこと歩いて行き、祭壇の前に立った。
木製の台座は、白木で、独特のいい香りがした。
幼いセーラが気付くことはないが、祭壇はもう、何百年と封印されてきた。学院長でさえ入ったことがない場所なのだ。
それでも、天窓からの陽光をさんさんと浴びていても、風化も腐敗もすることなく、湿気やほこりに汚れることもなく、そこに在る。
それは、セーラの足元に薄く描かれている、精霊の術印の結界による、加護のおかげだ。
セーラはサリエルに促されて、白布をそっとはずした。
もちろん、サリエルの術印のおかげでほこりひとつたたない。
「うわあ……」
そこにあったのは、丸い大きな鏡だった。
白木の台座から、細い木々が複数生えていて、それらが絡み合ってできた円の中央に、鏡は鎮座していた。
絡み合ってアーチを描きながら鏡を支えている木々には、数枚だけ緑色の葉がついていた。
その葉に、なんとなく触れてみたいとセーラが思ったその時。セーラが伸ばそうとした指先で、木が、わずかに震えた。
「え、ええっ?!」
突然、変化が起こった。
木々は、数百年ぶりという陽光を浴びて、生き生きとした若い葉を芽吹かせた。
さらさらと、葉と葉がこすれる音を上げながら、どんどん成長していく。
まるで、春の森の木漏れ日の下にいるかのような、爽やかな香りがセーラを包む。
セーラが白布を抱き締めて、息を呑んでいる間に、あっという間に、木はセーラ二人分くらいの高さに成長して、天井いっぱいに枝葉を茂らせた。
鏡も、少し上に持ち上げられて、セーラを見下ろす位置までいき、そこで木の成長は止まったようだった。
「すごい……すごいね、サリーちゃん」
「うん。久しぶりだったからさ。うまく動いてよかった」
セーラが目を輝かせて木を見つめていると、不意に鏡がきらりと光ったように見えた。
『何者だ。そなた』
不意に鏡から、威厳に満ちた女性の声が聞こえた。
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