セーラの決意
「セーラ、帰って来たの? 急に出て行ったから、心配したのよ?」
セーラが家に帰ると、母親が玄関の近くで心配そうにしていた。
病気の進行は止まったとはいえ、目は見えないままなので、外にも出ることもできず、ハラハラしていたのだ。
「ママ、あのね、セーラ、学院に行って来てもいい?」
「え? どうしたの? お休みなのに?」
セーラは母親に抱きつきながらそう言った。
母親は、転んだり何かにぶつかったりしないか用心しながらしゃがみこんで、手探りでセーラの頬に手を当てた。
「うん。あのね、そこに学院長先生がいてね、急いで調べたいことがあるから、サリーちゃんと一緒に、いつもの図書室でお手伝いしてほしいって」
「まあ。先生がいらっしゃるの?」
母親は見えないながらも、外の方をうかがうようなしぐさをした。
「うん、でね、ママもね、一人じゃ大変だから、学院長先生のお屋敷の人が来るから、その人と一緒にお家で待っていてほしいって」
「えっ? まあそんな……ママ、一人で大丈夫よ? セーラが帰ってくるまでくらい、一人でなんとかなるわ。それより、セーラは学院に一人で行くの?」
「セーラは、学院長先生と一緒に行くから大丈夫。あのね、どうして、学院長先生のお屋敷の人が来るかと言うと、ええと、先生の、気がすみませんって思うから、なんだよ!」
「まあ……困ったわねえ。先生は外にいらっしゃるの?」
「いるけど、今、ハーミットと大事なお話をしてるの。だから、お邪魔しちゃいけないの。すぐにお屋敷の人が来るから、何でも頼んでほしいって言ってたの」
「あらまあ、困ったこと」
母親は困ってしまった。
初対面の人が来るというのに、目が見えないのだから、今着ている服もセーラに出してもらったものだし、きちんと着れている自信もない。部屋がどのくらい散らかっているのかもよくわからない。
おもてなしもなにもできやしない。
だが、セーラがそわそわしていることと、言い出したら聞かないセーラの性格を思い出して、観念した。
「先生の言うとおりにした方が、セーラは安心するのね?」
「! うん!」
「解った。ママ、学院長先生のお屋敷の方に、お世話してもらって待ってるわね。よろしくお願いしますって、先生に伝えておいてくれる? ありがとうございますって」
「任せて! 行って来るね!」
セーラは明るくそう言うと、母親に一度思い切り抱きついてから、玄関の近くに掛けてあった制服のケープを羽織って外に出た。
必ず、フランを助けるんだ。
今度こそ、フランと、ハーミットと、学院長を助けるんだ。
セーラは、心の中で強く叫んで、外で待っていていくれる学院長とハーミットのところへと駆けて行った。
気持ちが先走って、セーラの足は少しだけもつれた。足元の小石をよけることがうまくできなかった。
ハーミットは、小石につまづいてよろけたセーラの肩をすばやく支えると、しゃがみこんでまっすぐセーラの目を見た。
悲しそうな顔をしていた。
「セーラ。すまない。協力に感謝する」
セーラは、そんな顔しないでと思ったけど、それをどう言葉にしたらいいか解らなかった。
みんなに笑っていてほしい。
そのために、こんな小さな自分にできることがあるなら、何でもやる。
そう思った。
「ううん!」
セーラは、精一杯真剣な顔をして、答えた。
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