勇気
セーラの足は、ひどく重かった。
学院の門までは、問題なく歩いてくることができた。
だが、学院の門をくぐろうとしたとたん、足が固まってしまう。
歩こう、歩かなくてはと思うが、足が思うように前に出ない。
下の学年の生徒たちは、もうみんな帰宅したようだが、高学年の生徒たちは帰りが遅い。数人が学院の庭を歩いていく。
セーラとは真逆に、門を出て行くとき、みんな不思議そうに見つめてくる。
その目線たちがセーラを更に追い込む。
「セーラ、だいじょうぶ? むりしないで?」
セーラの左手をきゅっと握っていてくれる母親が、弱々しい声でそう言った。
その母親を支えて、歩行を手伝っている医師が、困惑しきった様子でセーラを見た。
「だい、じょうぶ」
答えたはいいものの、気持ちとは裏腹に、身体はどんどん大丈夫ではなくなっていく。
頭がぐるぐるして、気持ち悪くなってくる。
気付けば、瞳が涙で溺れそうになっていた。
「き、きみ、大丈夫かね?」
セーラの体調の変化に気付いた医師が、どうにかセーラの顔を覗き込もうとするが、母親の左肩を支えているので、よく見えないようだった。
「こちらを見れるかい? 気持ち悪いんじゃないか? 顔色を見せてくれないかな? わたしはほら、お医者さんだから……」
医師が優しく声をかけるが、セーラは無言で首を横に振って、すうっと大きく息を吸った。
――母上のためだ。できるか?
ハーミットの言葉が、頭の中でぐるぐる回りだす。
母上のため。
ママのため。
ママと、これからも、ずっと一緒にいるため。
セーラは、大きく息を吸って、一歩を踏み出した。
出た!
足が一歩前に進む。
セーラは一歩ごとに、すうはあと大きく深呼吸をするようにして、ゆっくり歩きだす。
行ける……行くしかないんだ。
セーラは我知らず、涙をぼろぼろとこぼして、嗚咽をもらしながらも、一歩一歩、必死に校庭を歩いていった。
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