不安
ハーミットが立ち上がって、持っていた本を棚に戻そうとすると、その棚の横で、さきほど奇襲を仕掛けてきた少年フランが、ぶすっとした顔でこちらを見上げていた。
「ああ、ハーミット。私もハーミットとお呼びして構いませんね?」
「む。むう」
学院長がキラキラした瞳でハーミットにそう声をかけると、ハーミットは何故か苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ええ、それで、ハーミット。彼はフランです。セーラと同じ一年生で、魔術学教室に通っております」
「この子供も、この図書室に一日いるのか?」
「いえ、彼は……」
「うるせー! 俺は、俺のいたいとこにいるんだよ!」
フランは、突然大声を上げた。
セーラが驚いて肩をすくめたので、サリエルは肩からずり落ちて空中に放り出されるように飛び立った。
「おい、フラン! セーラを怖がらせるなよ!」
サリエルが不満げに言うと、フランはびくっとなって口をつぐんだ。
「失礼」
学院長はそう言うと、ハーミットの横をすり抜けて、フランの目の前にしゃがみこんだ。
「フラン。どうしてここに? 君は今、教室で授業を受けているはずです。先生は知っているのですか?」
「先生なんて、関係ない」
フランがぷいっとそっぽを向いたので、学院長は困ったように微笑んだ。
「今頃、あなたを探しているかも知れませんね。さあ、私と一緒に戻りましょう」
そう言って、学院長がフランの肩に手を置くと、フランは口を尖らせてうつむいて、ぎこちなくうなずいた。
それを見たセーラは、びくっとして、学院長の下へ駆け寄った。
「あの、先生、フラン、怒られませんか?」
「おや、そうですねえ……先生に黙って授業を抜け出すのは良くないことですが……いつものことですしねえ」
「俺は、怒られるのなんか怖くねーよ!」
「で、でも」
セーラが自分のことを心配していることに気づいたフランは、ムキになって言い返したが、いくらフランが心配ないと言っても、セーラは不安だった。
「先生、フラン、私のために、ユーファのお花を届けてくれたんです。だから、その、悪いなら、私が……」
「どうしてそうなるんだよ! 俺が勝手に抜け出してきたんだ! セーラは関係ない!」
二人のやりとりを、暖かい目で見守っていた学院長は、そっと、セーラの頭を撫でて、にっこりと微笑んだ。
「解りました。私がフランと一緒に、先生に説明しましょう」
フランは驚いたようだった。
セーラはにっこりと見つめてくる学院長の目を見て、少し迷った後、上目遣いで学院長を見つめて「でも……」と食い下がった。
「では、今日は私が一日魔術学教室の様子を見学しましょう」
「はあ?」
学院長の提案に驚いたフランは、裏返った声を出した。セーラは目を大きく見開いた。
学院長は、そっとセーラの顔に近付いて、
「フランが先生に怒られそうになったら、私がフランを守りますよ」
と耳打ちした。
セーラは顔を輝かせた。
「それなら、安心でしょう?」
「はいっ」
セーラの安心した笑顔を見ると、目の前で内緒話をされて内心不満だったフランも、そんなことはすっかりどうても良くなって、なんだか自分まで安心した。
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