守護精霊サリエル
「ええと、今日の課題は……」
薄暗い地下室の奥。セーラの頭上の採光用の天窓は、外から見れば、地面から出窓がぽっこり突き出しているように見える。
もちろん、この天窓の他にも、複数ランプが設置されているので、部屋全体の光源がここだけということはない。だが、学院長先生が自習机をここに設置したので、セーラはそれに従ってここに座っている。
特に何とも思わず使っていたセーラだったが、机の隅で丸くなってひなたぼっこをするサリエルを見て、サリエルの為に選ばれた場所なのかもしれないと思っていた。
サリエルは、学院長先生によると、この図書室塔を護る守護精霊なのだという。
精霊と言えば、セーラが学ぶ神学でも毎日教科書で見かける、人々の信仰の対象である。
まだ七歳のセーラの認識で言うと「すごい神様の使い」なのである。
いくら尊敬する学院長先生が、サリエルは精霊だと言っても、この小さくて、怒りっぽくて、いばりんぼうで、セーラのおやつを盗み食いするようないたずらっこのサリーちゃんが、そんなすごい存在だとはとても信じられなかった。
しかも、学院長先生は、そんなすごい存在のはずのサリエルに、ウィンクをしながら「君、どうせずっとこの地下室にいるだろ。暇なんだし、セーラと一緒にいてよ」と軽々しく頼んだのである。
とても「すごい精霊様」には見えない扱いだ。
だからセーラは、サリエルは他の魔術学の先生たちが使役している使い魔と同じように、学院長先生の使い魔なんだと思っている。
きっと「使い魔より、もっとすごい精霊に護られた部屋」だと、セーラを安心させるために、学院長先生もサリエルも嘘をついているのだと思って、騙されていてあげているわけである。
「えっと、この本かなあ」
学院長先生から毎日出される課題は、神学の本を読んで感想を書くとか、先生が作った問題を、答えが書かれている本を見つけて解くとか、そういうものが多かった。
今日は、神話に出てくる神様についての問題だった。
セーラは、神話の本がたくさんある棚に近づいて、手をのばした。
「よいしょ」
何とか取り出した本は、セーラにはとても重い、厚い本だった。
ようやく机に戻って、重い本をどさりと机の上に置くと、コンコンと頭上から音がした。
サリエルのこうもり羽根がぴくりと動く。
セーラが上を見上げると、天窓からこちらを覗く、見慣れた小さな人影があった。
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