日々
城崎
説明
「ルール?」
「そう、この世界にはいくつかのルールが存在しているの。いくらあなたが別世界から来たと言っても、この世界にいる以上はこの世界のルールに従ってもらうわ」
「それは構わないんですけど、具体的には一体どんなルールがあるんですか?」
「そうねぇ……」
そう言って彼女は、周囲を見回す。しばらくして例を見つけたのか、右斜め前を指差した。そこには、3つの箱がある。蓋のない、全体的に茶色をしている箱。遠目から見ても分かる程度には、色々なものが中に入っているようだ。
「例えば、アレは廃棄物を回収する箱なの。右から順に赤、青、黄色の横線が入っているでしょう? 赤はもう使えないもの、青は修理すれば使えるもの、黄色は使えるけれど要らないもので分かれているの」
区分の随分と違うゴミ箱みたいなものかと、1人納得した。
「青に入れられたものは、修理されるんですか?」
「えぇ。専門の人が振り分けて、担当しているそれぞれの工房や工場に届けられるわ。箱へ入れる判断が個人の感性だから、一応は赤や黄色に入れられたものも全部チェックされるんだけどね」
それは手間がかかりそうなことをしているものだと、驚きと感心が入り混じる。
「その修理されたものや、黄色に入っていて使える品物はどうなるんですか?」
「比較的安価になって、市場へと出回るわよ。時々レアなものが入っているから、あなたも毎日見てみるといいかもしれない。市場は街の広場で朝の10時から行われるから、要チェックね」
「分かりました。明日にでも行ってみます」
「あぁ。なら多分、途中であなたを介抱してくれた一行と出くわすかもしれないわ。もし会ったら、きちんとお礼を言っておいてね。彼らの特徴は分かる?」
「はい。羽根のような装飾をそれぞれが身につけている、6人の団体ですよね」
「そうそう。他とは違って目立つから分かると思うけど、分からなかったらまた後日お礼の場を用意するわ」
「ありがとうございます」
「いいのよ。これも仕事だから」
そう言って朗らかに笑う彼女に、苦笑いを返す。完全に笑い返すには、度胸が足りない。こほんと咳払いを1つして、気持ちを落ち着かせる。
「他には、どんなルールがあるんですか?」
「夜はあまり火を灯さないことね。これに関しては怪談話としても語られているけれど、どちらかというと資源の消費を減らす意図の方が強いわ」
「怪談話とは?」
「私は怖い話が苦手だから、自分の口からは話せないわ。後で別の人に聞くか、図書館で調べてくれる?」
「そうなんですね。ちょうど図書館に行きたいと思っていたので、そこで調べてみます」
「ありがとう、助かるわ。他は、うーん……」
彼女はしばらく悩んだ後、あぁ! と何かに思い至り、こう続けた。
「あなたは人間と同じ体をしているせいで力がどのくらいあるのか分からないから、一応言っておくわね。もしも人間を殺したら、ちゃんと片付けておくのよ」
戦慄が走る。
「……この世界では、殺人は日常的なものなんですか?」
「人間なんて、放っておいても簡単に死ぬじゃない。だって1番弱いもの」
そう言って彼女は、長くて二股に分かれた舌で唇を舐めた。鱗がテラリと、陽に当たって輝く。
日々 城崎 @kaito8
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